New Food Industry 2008年 6月号

L-シトルリンの生理活性

木崎 美穂

自然界には,300種類以上のアミノ酸が存在するといわれており1),そのうち20種類は我々の体のタンパク質を構成するアミノ酸である。アミノ酸は,遊離の状態において生理機能が知られているものが多い。今回紹介するL-シトルリンは,タンパク質を構成しないアミノ酸の1つである。L-シトルリンはスイカ果汁より単離,発見されたアミノ酸である。その学名Citrullus vulgaris からL-シトルリン(L-Citrulline)と命名された2)。
 L-シトルリンは,平成19年 8月17日に厚生労働省の通知によりL-シトルリンは食品としての使用が可能となった。L-シトルリンは,米国では健康食品素材として使用されており,ヨーロッパではフランスでシトルリン-リンゴ酸塩が疲労軽減作用を持つOTC薬として1978年より30年間使用されてきた。

キノコによるエタノール・キシリトールの効率的生産

岡本 賢治

料理に欠かせない万能な食材の一つとして思い浮かぶのがキノコではないだろうか。今日では季節を問わず,炒め物や汁物などいろんな場面で存在感を出している。とかく野菜のようにイメージされがちだけれども,実は担子菌というれっきとした微生物に属する。また,抗腫瘍をはじめとする様々な生理活性物質,そしてセルロースやリグニン等の木質分解酵素を有するなど他の微生物にはない一面を有しているのも大きな特徴である。狭い国土ながら日本列島各地には豊富なキノコが分布しており,その総数約6千種と推定される。このうち性質等が明らかにされているのはほんの一部で,まだまだ未知の部分が多い生物である。近年,キノコが有する潜在的能力が次々に解明され,その応用が期待されている。森林の分解者としても知られるキノコの木材腐朽能をうまく活用できれば,バイオマスの変換に一役買う可能性が高い。

血球細胞に対するプロポリス及び鹿角霊芝の放射線防護効果の研究

具 然和

プロポリスは近年,国内において抗がん剤として注目されており,その物質には様々な薬効成分が含まれていることが明らかになった。プロポリスの生理作用は抗酸化作用,抗菌作用,抗腫瘍作用,免疫作用,抗炎症作用がある。鹿角霊芝はサルノコシカケ科に属し霊芝の中でも「鹿の角」の形状をしたものをいう。自然に生息する霊芝としては1万本に1本という割合でしか存在せず,古来中国では不老長寿の薬として皇帝への献上品とされていたものである。鹿角霊芝にも免疫作用,抗酸化作用,抗炎症作用,抗腫瘍作用,抗アレルギー-作用が知られている。
 以上のことから,本研究ではプロポリスおよび鹿角霊芝を用いることで,血球細胞の減少抑制が認められるか,また,単独で使用するより相乗されるのか,拮抗されるのかを観察した。プロポリス及び鹿角霊芝を用い,放射線に対する感受性が高い白血球数(リンパ球数,単球数)を観察し,放射線防護効果を検討した。

線虫を用いた生理機能物質探査のための新規試験法の実用化研究

西川 禎一

筆者は日本抗加齢医学会に所属している。抗加齢すなわちアンチエイジングと理解されるが,巷ではアンチエイジングに有効などと説明して効果や根拠の定かでない食品や化粧品あるいは日用雑貨を売りつける商法もあると聞き当惑することが少なくない。日本抗加齢医学会は,臨床医を中心に薬剤師,看護士,管理栄養士など5000名を超える会員を抱え,国民のアンチエイジングに真に有用な学術情報を発信する組織として活動している。
 筆者は学会認定の抗加齢指導士として教育研究に携わっており,当研究室では主に栄養学的側面からアンチエイジングに寄与する方法の開発を目指している。本稿では,2006年度に独立行政法人科学技術振興機構から研究助成金を受けて行った実験を中心に私達の研究を紹介したい。

プロセスチーズの製造技術

川﨑 功博

数千年といわれるナチュラルチーズの歴史に比べ,プロセスチーズの歴史は浅く,まだ100年程度である。19世紀末冷蔵設備が無かった当時,チーズを輸送するという必要性から,ナチュラルチーズを殺菌する技術が検討された。当初は缶に入れたチーズを殺菌するという方法であったが,試行錯誤を繰り返すうちに現在のプロセスチーズの技術ができあがった1)。プロセスチーズの製造は,ナチュラルチーズに溶融塩と水を加え加熱溶融し,一旦流動性のある状態にして型に詰め冷却する。プロセスチーズは殺菌されたチーズであるばかりでなく,必要に応じた型に詰めることで,さまざまな形状に加工できることも特徴である。この特徴によりプロセスチーズは,アルミに包まれた個食タイプ,サンドウィッチに便利はスライスタイプ,カップ容器に入ったスプレッドタイプなど,用途に応じてさまざまに形を変えることで発展してきた。これはナチュラルチーズには無い利点であり,チーズの用途を広げる上で大きな役割を果たしている。

チーズ製造の衛生管理

柳平 修一、鈴木 明、花形 吾朗

わが国では食生活の洋風化や多様化などにより,チーズの消費量が増えている。また,チーズは栄養成分をバランス良く含む優良な食品であると同時に,硬質チーズを除いて比較的水分活性が高いことから腐敗微生物や各種病原微生物にとっても格好の栄養源となる。したがって,これら病原微生物の汚染や増殖を許した場合,人の健康に悪影響をもたらす可能性が示唆される。このため,原料乳の生産から製造加工を経て消費にいたるフードチェーンにおいて,病原微生物の汚染や増殖を抑制し,さらには排除するような衛生管理が必須となる。

軽切削型精米機を用いた無洗米の品質

庄司 一郎

近年,環境にやさしい食品が注目されつつあり,米においても洗米操作が不要で,かつ環境にやさしく栄養価の高い金芽米1)なる無洗米が注目を集めており,炊飯業界を中心に一般家庭にも普及しつつある。一般に精白米は,炊飯の際に,洗うという手作業が行われる。この操作により,精白米の段階では完全に除去できない白米表面の微粉糠(肌糠)を除去することが,美味しいご飯を炊き上げるための大切な条件となっている。多様化した今日,消費者の米離れの大きな要因の一つに炊飯時間の手間,特に洗うことの煩わしさにあると言われている。今日求められている無洗米は,単に炊飯を簡便化・利便化するだけにとどまらず,水の節約,災害時の備え,さらには排水による環境汚染防止も重要な目的としている。精白米を無洗化する方法には現在,乾式,水洗い式および媒体式などがある。

築地市場の魚たち 魚貝類の産地−北日本

山田 和彦

築地市場内に足を踏み入れると,目に付くものの1つが発泡スチロールの箱である。荷車やトラックに載せられて運ばれるもの,出荷場所や仲卸店舗に積まれたもの,あるいは役目を終えて再処理施設に山積みにされたもの。営業時間中の築地市場内は,どこも発泡スチロールの箱だらけである。この箱は当然のことながら,魚貝類を運ぶためのものである。俗にトロ箱と呼ばれ,かつては木箱が主流であった。このトロ箱の脇を見ると,出荷地や出荷者の名称が印刷してある。よく探せば,北は北海道から南は沖縄まで,日本全国の地名を見つけられるかもしれない。以前にも触れたように,多くの産地から魚が入荷していることも,築地市場に入荷する魚貝類の種類がほかの市場と比べて多い要因である。これまで6回にわたって,季節によって変化する魚貝類の種類,旬について書いてきた。今回からは切り口を変えて,産地によって異なる魚貝類についてみてみようと思う。今回は,北日本から入荷する魚貝類を取り上げる。

連載 薬膳の知恵 (25)

荒 勝俊

臓とは体内におさまっている内臓を指し,これらは中医学においてはそれぞれが持つ生理的機能的特長によって“臓”・“腑”・“奇恒の腑”の3つに分類されている。“臓”は五臓を指し,これには肝・心・脾・肺・腎がある。“腑”は六腑を指し,胆・胃・小腸・大腸・膀胱・三焦がある。また“奇恒の腑”は,脳・髄・骨・脈・女子胞がある。
 臓腑はこれまでに述べてきた様に,五臓および六腑の間の各種生理機能は,相互依存・相互制約の関係にあり,それぞれが協調しあってバランスを保っている(臓象学説)。こうした臓腑の生理機能のバランスが崩れる事で障害が起こり,疾病を引き起こす。
 今回紹介する臓腑弁証法は,中医学における陰陽五行学説や臓象学説の理論から各臓腑における病変を分析し症候を弁証する方法である。

連載エッセイ 楊枝の歴史と文化(最終回)

稲葉 修

愛する人を亡くした遺族が故人を偲ぶためにその肖像を彫刻し,その周りに生没年月日を入れたケースに故人の使用した銀のつまようじを収め,身近において愛用したものと思われるものもある。母親の場合は遺髪を楊枝入れの表面に細工し,生前に使われた金製や銀製の楊枝が形見として愛用された。
 他に鼈甲やヤマアラシの針も用いられ,水鳥の羽根を引き抜いて作られた昔の羽根ペンのペン先によく似たつまようじはヨーロッパの伝統的なもので,現在も使われている。イギリスやイタリアの有名百貨店では各々の名前入りの小袋に入れて販売されている。しかし,作るのに手間がかかり,高くつくため最近はプラスチックのストローを斜めに切った類似品が使われている。