New Food Industry 2008年 3月号

多種類微量元素を含有する天然ミネラル食品素材サルデチエラとその健康機能性

山口 正義、 河野 茂生

近年,健康機能性を発揮する天然食品素材の探索とその食生活への応用については,食と健康との関連で,多くの関心がもたれている。その中で,ミネラルや微量元素の栄養所有量がそれらの健康保持の面から設定されているが,カルシウム及びある種の微量元素の栄養所有量は満たされていない。さらに,栄養所有量がいまだ決定されていない微量元素も数多くある。それら元素の生体機能調節における役割の解明は重要であり,栄養生命科学の面からも意義がある。
サルデチエラは河野茂生によって開発された天然ミネラル食品素材である。「ヒトの命を支える土」大地から抽出した天然ミネラルの30種類以上を含み,現代人に不足しているミネラルを補うことで,人を健康に導く働きを持つことから「サルデチエラ・地の塩」と命名された。この「地の塩」という言葉は,新約聖書マタイ伝に述べられており,人は地上にいて生命維持に大切な「塩」のように役立たねばならない,という意味がある。

キウイ(Actinidia deliciosa)葉エキスの血糖値上昇抑制作用

城﨑 美幸、小山 智之、矢澤 一良

キウイフルーツ(Actinidia deliciosa)の葉メタノール抽出物(以下,キウイ葉エキス)はマウスを用いた経口糖負荷試験においてデンプンとスクロース負荷時の血糖値の上昇を有意に抑制した。この血糖値上昇抑制作用のメカニズムを解明するために,キウイ葉エキスを液々分配することにより得られた4つの画分を用いて検討した。 in vivo試験の結果,n-ブタノール画分はスクロース負荷試験において,90%メタノール画分はデンプンとスクロース負荷試験においてそれぞれ有意に血糖値上昇抑制作用を示した。また,in vitro試験の結果,90%メタノール画分にはα-アミラーゼ阻害活性が,n-ブタノール画分にはスクラーゼ阻害活性がそれぞれ確認された。これらの結果は,キウイ葉エキスがマウスにおいて糖質の消化酵素であるα-アミラーゼとスクラーゼの酵素活性を阻害することによって食後の血糖値上昇を抑制することを示している。キウイの葉はこれまでとくに利用されていなかった廃棄物であったが,本研究によりその有効利用法が示されたと考える。また,キウイ葉エキスは糖尿病を予防する新規食品素材として有望であることが示唆された。

ベトナム産Nu Voiよる血糖値上昇抑制効果

グュエン・ヴァン・チュエン、トウルン・トエット・マイ、浅野 恵理

近年,ポリフェノール類による糖の吸収遅延,血糖値上昇抑制効果などが知られ,糖尿病を含む生活習慣病への効果が期待されている。日本における糖尿病の大半が2型糖尿病であり,運動療法や食事療法による血糖コントロールが重要である。この血糖コントロールに関して,ポリフェノール類による糖の吸収遅延及び血糖値上昇抑制効果などが知られるようになり,特定保健用食品(トクホ)としてお茶類やグアバ葉などを原料としていくつか商品化されているものがある。これらの特定保健用食品は,糖の吸収を穏やかにするということで血糖値が気になる人に飲用されている。そこで我々は,ベトナムで食されている28 種類の飲食材について,ポリフェノール含量,α-グルコシダーゼ抑制,抗酸化性についてスクリーニングを行った。その結果,Nu Voi(ヌ ボイ)と呼ばれる食材が,血糖値上昇抑制に最も有望なものであることが分かった1)。

「期限表示」の偽装がなげかける問題点

奥田 和子

新聞,テレビなどでは毎日のように食品の期限表示の偽装事件が報道される。ここでは,事件の真相から浮かび上がるさまざまな問題点を整理し,こうした現象がなぜ連発するのか掘り下げながら問題の真相を模索した。本稿は,生産者側の論理,流通現場の現状,消費者の現状,行政のかかわりを中心にそれぞれがどうあるべきかを述べた。具体的には,ある新聞に掲載された「食の期限表示」に関するインタビュー記事1)を基に,ネット上で専門家(3名,筆者はその1人)と読者が討論した。その結果をベースにして,販売流通担当者の意見を聞き取り,総合的に考察したものである。
 まず,はじめに賞味期限と消費期限の違いを述べておく。

乳,チーズおよびホエイの成分科学

石田 光晴

ここでは,チーズ製造にもっともよく使用される牛乳の成分を中心にして述べる。乳牛の種類が異なるように,それらの栄養成分も大きく異なる。表1に示すように,我が国でもっとも飼育されているホルスタイン種(約95%)と次に多く飼育されているジャージー種(約5%)とでは,乳脂肪含量が大きく異なり,ジャージー種の方が乳脂肪分およびタンパク質含量が高いので,全固形分も高くなっている。しかし,乳量はホルスタイン種の方が非常に多い。したがって,表 2に示すように,日本で市販されている成分無調整乳の成分組成は,ホルスタイン種牛乳の値に近い。加工乳である濃厚牛乳や低脂肪乳,さらに脱脂乳では,全固形分や乳脂肪含量を調整してあるので,それらの値は普通牛乳とは大きく異なっている。一方,人乳では牛乳に比べ,タンパク質含量は低く,炭水化物含量は高い。やぎ乳の成分は,ホルスタイン種牛乳とほとんど変わらない。

チーズの熟成機構

井越 敬司

チーズは一般に原料乳を殺菌し(原料乳を殺菌しないで製造されるチーズもある),スターターとして乳酸菌を添加後,凝乳酵素で凝固,攪拌,クッキング,型詰め,圧搾,熟成というプロセスを経て製造される。スターターとしていずれのチーズ製造にも乳酸菌が使用されるが,その他にプロピオン酸菌(スイスチーズ),ブレビバクテリウム菌(ウオッシュチーズ),Penicillium roqueforti菌(青カビチーズ),Penicillium camemberti菌(白カビチーズ)等が添加されるチーズもある。型詰めされ,最終的に圧搾成型されたチーズ(グリーンチーズ)は一定の湿度と温度で熟成される。この熟成過程によって,チーズは初めてチーズらしくなる。すなわち,ガムのような組織と風味の乏しいグリーンチーズは熟成を経て,チーズ固有の風味を醸し出し,チーズらしい組織を造りだす。熟成期間および温度はチーズの種類によって違う。

チーズの機能性 一次機能

根岸 晴夫

チーズの栄養成分は表1に示したように乳の脂肪とカゼインから構成され,カルシウムとビタミンAを豊富に含むことが特徴である。そのほかに少量の可溶性成分としてホエイタンパク質,乳糖,ビタミンBなどの水溶性ビタミンを含む。同様にリン,マグネシウムのほかに,亜鉛,鉄,ヨウ素,セレン,銅など生体にとって重要な微量ミネラル成分も含まれており,非常に栄養バランスに優れた食品である。栄養成分の組成はチーズの種類で異なり,代表的なチーズの成分組成は表1に示した通りである。またカゼインはチーズの主要タンパク質であり,表2に示したように,そのアミノ酸バランスは牛乳と比較してトリプトファン含量が高いという特徴がある2)。これらのチーズの栄養成分の詳細についてはチーズの基礎科学の項で述べられている。

皮膚の炎症発生過程におけるリポ酸の働き〜抗酸化剤として,シグナル調節因子として〜

尾藤 利憲

自然環境の破壊,超高齢化社会など,人類は過去経験したことのない領域へと足を踏み入れつつある。その領域において身に降り掛かるであろう様々なストレスに対抗するには,本来人間に備わっている自己防衛能力だけではあまりにも心もとないことが想像される。それゆえ,人類は叡智を集めて対抗手段を開発している。その中でもいわゆる健康食品は大多数が比較的簡便に利用できる防衛手段として太古から研究が重ねられてきている。近代にいたる迄,多くの健康食品は経験則に基づき重用されてきたが,20世紀に入り,科学の急速な進歩のお蔭で分子生物学的な機構が明らかになり,ブラックボックス的なものであったその作用機序が解明されつつある。それとともに健康食品の有効性は必然的により厳しい目にさらされることになった。

連載 薬膳の知恵 (22)

荒 勝俊

臓器とは体内におさまっている内臓を指し,これらは中医学においてはそれぞれが持つ生理的機能的特長によって臓・腑・奇恒の腑の3つに分類されている。 “臓”は五臓を指し,これには肝・心・脾・肺・腎がある。“腑”は六腑を指し,胆・胃・小腸・大腸・膀胱・三焦がある。また“奇恒の腑”は,脳・髄・骨・脈・女子胞がある。
 臓腑はこれまでに述べてきた様に,五臓および六腑の間の各種生理機能が,相互依存・相互制約の関係にあり,それぞれが協調しあってバランスを保っている(臓象学説)。こうした臓腑の生理機能のバランスが崩れる事で障害が起こり,疾病を引き起こす。
 今回紹介する臓腑弁証法は,中医学における陰陽五行学説や臓象学説の理論から各臓腑における病変を分析し症候を弁証する方法である。臓腑弁証は,臨床上きわめ実用性が高く,弁証体系の中でも重要な位置づけがなされている。

築地市場の魚たち 魚の歳時記 −冬−

山田 和彦

師走ともなると,普段にも増して築地市場はあわただしくなる。今から10年以上前には,勝どき門を入ったところに,特設の荷捌き場や運送業者の集配場が設けられていた。仲卸店舗の通路も,人が行きかうのが困難なほどの盛況振りであった。その後,徐々に取扱量が減り,人の出入りも少なくなってきた。最近では特設場が設けられることもなくなり,場内も混雑と呼べるほどの人出がないのは少々寂しい。例年12月30日は市場の仕事納めとなり,翌年1月5日の仕事始めまで市場の門は閉じられ,場内はひっそりとしている。新年の仕事始めには初セリが行われる。ご祝儀相場なので,時折とんでもない高値が付いてニュースになることもある。

連載エッセイ 楊枝の歴史と文化(9) -楊枝の先進国-

稲葉 修

「つまようじ」の先進国は北欧諸国である。北欧では,歯には断面が二等辺三角形になっている「三角ようじ」が多く使われる。一足早く,高齢化社会を迎え,歯の大切さを十分知っている北欧の国々では,「つまようじ」に対する意識も格別である。
 三角ようじは歯と歯の間の形に合わせて作られている。いつも身近に持ち歩き,食後すぐに歯と歯の間の汚れ(これが醗酵して口臭の一因になる)を上の二辺で取り除き,底辺で歯茎を軽く押しマッサージする。この歯ブラシの届かない歯間部のマッサージが大切なのである。そのためデンタル・ピックとかガム(歯ぐき)・マッサージャーとよばれる。この「三角ようじ」は単なる「つまようじ」ではなく大切な歯間清掃用具の一つと考えられ,薬局で売られている。三角ようじの清掃とマッサージで歯を守っていただきたい。

中国食品通信

馬 桂 華

近年,広東省湛江の水産品輸出量は,湛江検査検疫局政府の関連部門の努力によって急速に進展している。関連部門の統計によると昨年10か月間における湛江での水産品輸出は8万トン余り,4億ドルに達した。
 広東省湛江は中国最大の車エビの輸出基地である。昨年6月末よりアメリカ食品医薬品局が中国の養殖エビ,ウナギなど5種類の水産品に対して留置検査禁令を実行して以来,湛江の車エビ価格は低迷し,多くの車エビ加工輸出企業が深刻な影響を受け,アメリカに対する輸出も一時は大幅に低下していた。アメリカ以外では,昨年4月,ロシアはロシア向け輸出水産品加工企業に対し,登録許可制度を実行したことから湛江の水産品輸出は同様に厳しい試練に直面していた。このような状況に対し,湛江検査検疫局および関連部門は素早く対応し,自主検査自主対応を進める中で,会社—生産基地−基準化の生産管理体制を構築した。その結果,製品の品質管理が厳密に行われるようになったことから,水産輸出品の安全性が確保されるようになった。