New Food Industry 2008年12月号
糖転移ヘスペリジンの機能食品素材としての可能性
久保田 倫夫
ヘスペリジンは,柑橘類の果皮に多く含まれるフラボノイドの一種であり1),一般的にビタミンPとも呼ばれている。他にも,ナリンジンやルチンもビタミン Pに属する。ヘスペリジンは多くの柑橘類に含まれるが,グレープ・フルーツには含有していない。一方,ナリンジンはグレープ・フルーツに多く含まれる。ミカンが甘く,グレープ・フルーツが苦く感ずるのは,この成分の違いで,ヘスペリジンはそれほど苦くなく,ナリンジンは苦い。ルチンは一部の柑橘類に含まれるが,マメ科のエンジュやタデ科のソバに多く含まれる。In vitroの試験では,ルチンの抗酸化力は強く,食品分野では,その働きを利用して色素の安定化に用いている。
安定型ビタミンC誘導体L-アスコルビン酸2-グルコシドの特性と食品分野における有効性
三皷 仁志
ビタミンC(L-アスコルビン酸;以下AsAと略)は,人々の健康にとって不可欠な役割を果たすことが古くから認識されてきた栄養素である。その歴史は,十六世紀後半の大航海時代にさかのぼる。この時代,遠洋航海中の船乗り達は壊血病に苦しんでいたが,新鮮な野菜や柑橘類を摂取すれば,壊血病は治癒することが経験上知られていた。これらの観察がきっかけとなり,野菜や柑橘類に含まれるAsAが抗壊血病作用の本体であると同定され,AsA研究が幕を開けた。その後,我々人類は体内でAsAを合成できないこと,また,AsAが欠乏するとコラーゲン合成が不十分となり,壊血病に見られる結合組織の疾患を引き起こすこと1-3)が明らかとなった。1970年代以降になると,AsAは抗壊血病作用以外にも多彩な生理作用を持つことが明らかにされてきた。
食糧危機のなかで「主食」を考える —戦後の米たたき食育—
奥田 和子、山本 由美
穀類の値上げが消費者の主食を直撃している。主な原因は原油の高騰,バイオ燃料への転換,穀物投機,輸出禁止・規制,それに異常気象による自然災害,生活水準向上圏(中国,インド)の人口増などである。わが国はカロリーベースで自給率40%を割り込み,カロリーの60%を外国に依存している現実は問題である。過去50年間で,唯一自給率の高い米の消費が半分にまで落ち込んだ理由の一つに戦後の米たたき食育がある。その実態を明らかにしながら,主食としての米の大切さ,米を中心にすえた主食回帰,今後の食育のあり方に警鐘をならしたい。
新規食品素材としてのコメタンパク質とその生理機能
門脇 基二、久保田真敏、増村 威宏 、熊谷 武久、渡邊 令子
コメは我々日本人にとって最も身近な食物であり,主要なエネルギー供給源である。このコメが肉や魚介類に次ぐ主要なタンパク質供給源でもあることは,コメ中のタンパク質含量がデンプンに比べて少ないこともあり,あまり知られていない。このように,コメは栄養供給源として重要な食品であるにもかかわらず,日本人の食の欧米化に伴い,その消費量が数十年にわたって減少が続いている。しかし,近年,原油価格高騰に伴うトウモロコシやコムギ価格の高騰が発端になり,コムギ粉の代わりにコメ粉を使用したコメ粉パンの開発・普及などコメの新たな利用方法の確立に注目が集まっている。また,日本の食料自給率はカロリーベースで約40%(平成19年度概算値,農林水産省)であり,食料自給率の向上は国を挙げて対応すべき課題の1つとなっている。
甘酒の機能性〜酒粕甘酒を中心として〜
山本 晋平 、松郷 誠一
甘酒の定義は正式には存在しないようであるが,文部科学省による甘酒の定義1)によると「「甘酒」は,通常,米麹(こうじ),米飯,水とを混和し,50〜 60℃で,12〜24時間保温,糖化させて造られる日本古来の飲料である。なお,甘酒はアルコール分をほとんど含まない。」となっている。
近年,(上述の定義とは異なる)「米麹,酒粕,又はそれらの混合物などに甘味料を加え,更に香味料,酸味料などを加えて簡便化して製造したもの」2)が広く販売されるようになってきた。
そこで前述の文部科学省の定義による日本古来の甘酒を甘酒Ⅰ(麹甘酒),後者の酒粕を使用した甘酒を甘酒Ⅱ(酒粕甘酒)として,明確に区別し,本総説にまとめてみる。
キニン産生系の酵素ナットウキナーゼ —カリクレインにかわる納豆の降圧・循環改善作用—
須見 洋行、矢田貝智恵子、内藤 佐和、丸山 眞杉
納豆は我が国で最も古くから知られている伝統的大豆発酵食品であり,その歴史,効能は「本朝食鑑」1)にさかのぼる。血圧に関するものとしては世界で最初に自然発症高血圧ラット(SHR)を用いた林ら2)の報告がある。その後,納豆の粘り分画をラットあるいはヒトに与えると最初一時的に昇圧するが,徐々に降圧作用が認められた(図1,2)3)。その要因はよくは分かっていないが納豆食での有意な機能性の1つである。
多くの生活習慣病の中で,特に高血圧は最も頻度の高い疾患で加齢と共に増加する傾向にあり,さらに放置しておくと動脈硬化になりやすく,脳血管疾患や心臓疾患の要因ともなる。angiotensin-converting enzyme(ACE)は血管平滑筋収縮物質アンジオテンシンⅡを形成する酵素であり,キニンを分解する酵素キニナーゼⅡとしても知られている。納豆中の ACE阻害物質に関しては岡本,柳田など4)の報告があるが,彼らによればいずれも主要なものはニコチアナミンに似た低分子の化合物という。
糖尿病の急増と桑園の遊休化対策としての桑成分の機能性食材化
宮澤 陽夫、木村 俊之 、仲川 清隆
本稿では,糖尿病の急増,桑園の遊休化を踏まえ,桑葉に特徴的に含まれる食後高血糖改善成分の分析法を開発し,機能性食材として活用しようとする著者らの取組みを紹介する。
現在,我が国では6人に一人が糖尿病およびその予備軍で,糖尿病の予防と対策は喫緊の課題である(図1)。また,桑は古来,養蚕のため盛んに植栽され,東北の中山間地域の主要産業を担ってきたが,養蚕業の衰退に伴い桑園の遊休化が急速に進行し,桑葉の特性を生かした代替産業の構築が急務となっている(図 2)。
日本農業再興と食料自給率向上
藤田 哲
2006年秋に始まった小麦,トウモロコシ,大豆の価格上昇と共に,米価が約3倍に急騰し,オイルピークを迎えた原油価格は高止まっている。この状況は構造的であり,長期的には深刻さを増すことが確実であるため,一気に食料危機への不安が高まった。この状況下で,日本の食料自給率の低さは,国家としての異常事態であるが,消費者にも政治家にもその重大性認識が十分であるとは感じられない。この小文では,ここに至った日本農政の失敗とその改革を考察し,そして食料自給率向上の具体策について,山地・森林酪農の展開などについて提言する。
骨量を増進する食品由来生理活性因子の複合効果と骨粗鬆症を予防する新規サプリメントの開発
山口 正義
カルシウムの貯蔵器官である骨は生体の骨格系支持組織として重要な役割を果たしている。骨組織には,骨を形成する造骨細胞の骨芽細胞と骨塩溶解(骨吸収)をもたらす破骨細胞が存在し,骨量を保持するリモデリングの仕組みが構築されている。これは,骨の再構築とよばれ,新鮮な柔軟性のある骨組織を維持するためのものである1)。その調節の仕組みは複雑である。
多くの関心を集めている骨粗鬆症は,骨量の減少にもとづく骨梁等の微小構造の劣化により骨折の危険性が高まった病態であり,骨吸収と骨形成の不均衡により発症し,骨量が加齢に伴って減少して易骨折性をもたらす骨の病気である。これは,多因性疾患であり,骨粗鬆症により骨折すると寝たきりとなり,寿命に影響するため,高齢化社会に向けての健康的な生活の面から,その予防と修復の必要性のある疾患として注目されている2)。
連載 薬膳の知恵 (31)
荒 勝俊
人体は一つの有機的統一体であり,局所における変化は全身に影響を及ぼし,内臓の変化は五官,四肢,体表などに変化を及ぼす。こうした観点から,中医学における証の診断は,舌を観察し,脈を診断し,声を聞き,症状を尋ねる事で,体の各方面に現れた変化を情報として取り出す事で行われる。具体的には,視覚により全身および局所の状態を観察する「望診」,聴覚と嗅覚により声や分泌物の臭いの異常を知る「聞診」,本人や家族から自覚症状,愁訴を詳しくたずね,病気の経過,熱・汗・食欲など診断に必要な情報を収集する「問診」,直接触れて診察する「切診」の4種類の診断方法(四診)から構成されている。四診で得られた情報から「証」を見極め,自分の体の状態を理解する事で,病気になる前に普段の食生活や生活態度を見直し,体のバランスを正常に戻す事が健康維持の為に重要となる。
築地市場の魚たち
山田 和彦
これまで,築地市場に入荷する魚貝類を様々な角度から見てきた。これらは,市場内外で多くの方から寄せられた問合せと筆者の乏しい知識を元に,表題ごとにまとめなおしたものである。よく聞きかれた質問の1つに,調べようとした名前が本に出ていない,というのがあった。以前もふれたように,魚貝類の名称は,多種雑多である。そこで,今回から築地市場に入荷する魚貝類を五十音順に並べて紹介しようと考えた。ここには図鑑に出ている名前を中心に,市場名や,若干の地方名も含めようと思う。また,標準和名で示した魚貝類には,簡単な解説も付けて調べるときの参考になるようにした。なお。片仮名表記は標準和名のもの,平仮名表記は市場での呼び名や地方名などとした。