New Food Industry 2008年10月号

焙煎コーヒーが肝炎ウイルスの発癌を予防するメカニズム

佐久間千勢子、岡 希太郎

近年の疫学観察研究によれば,コーヒーを飲んでいる人ではC型肝炎ウイルスの発癌リスクが軽減している。コーヒーに含まれている既知の抗ウイルス成分はカフェインとギ酸であるが,それだけでは説明できない。我々は新たな抗ウイルス成分としてN−メチルピリジニウムを見出したが,それでも不十分である。C型肝炎ウイルスの発癌には,ウイルス性肝炎の発症が必要条件となっているが,ここでもコーヒーのカフェインが肝炎発症と増悪を予防しているという傍証証拠がある。当面の結論として,焙煎コーヒーは抗ウイルス作用と抗炎症作用の相乗効果によって発癌リスクを軽減している可能性が高い。

パームフルーツオイルのおいしさ

亀谷 剛、笠井 通雄

人が食品を食べるときに感じるおいしさは,味覚,嗅覚はもちろんのこと,触覚,視覚,聴覚等によって総合的に判断されると考えられる。味は大きく化学的味と物理的味の2つに分けることができ,化学的味とは“味”,“におい”等の味覚,嗅覚,物理的味とは“歯応え”,“見栄え”,“音”等の触覚,視覚,聴覚により感じられるものを表している。主に液体状の食品では化学的味が主因子となり,固体状の食品では物理的味が食品の味に大きく影響を及ぼすことが知られている。特に高温の油を用いて揚げるフライ食品において,パリパリ,サクサクといった言葉で表される独特な歯応えや音は,おいしさに強く影響を与えていると考えられる1)。しかし,これら食感を数値化することは非常に困難であり,官能評価に頼っているのが現状である。

メタボリックシンドローム対応素材としてのアマニ(亜麻仁)

福光 聡、川久保 誠

現在,様々な企業や研究機関によって食品の健康機能が研究されており,健康食品市場においてメタボリックシンドローム対応素材は注目されている分野の一つである。メタボリックシンドロームは内臓脂肪型の肥満によって動脈硬化や脳梗塞,心筋梗塞といった様々な生活習慣病が起きやすい状態のことを指す。平成 17年度の国民健康・栄養調査によると,メタボリックシンドローム該当者は年齢と共に上昇する傾向があり,男性では全体の半数近くが該当者及び予備軍であった。このような現状を踏まえて,平成20年4月より40歳から74歳までの保険加入者全員を対象とし,通称,「メタボ健診」が義務化されている。このように,肥満は様々な疾病のリスクファクターであることから,肥満の予防は様々な生活習慣病改善に有効であると考えられている。これまでに,私達は,アマニに含まれるポリフェノールの一種であるリグナンが糖尿病や動脈硬化などの疾病を予防するという多くの報告に着目し,これらと関係の深い肥満へのリグナンの影響を検討している。

植物由来のフェノール性チロシナーゼ阻害剤

二瓶 賢

チロシナーゼ(ポリフェノールオキシダーゼ)は,微生物,植物及び動物に分布する酸化還元酵素である。この酵素はメラニンなどの色素形成の初期段階に当たる連続した二つの反応,モノフェノール(M)のオルトヒドロキシ化とジフェノール(D)のオルトキノン(Q)への酸化を触媒する(図1)1)。
 私たちはこの酵素反応を身近に感じることができる。例えば,日焼けや果物の変色および昆虫の外皮形成などの着色やポリマー化現象は,チロシナーゼが深く関与している。紫外線がヒトのメラノサイト(色素細胞)を刺激すると,チロシナーゼ活性が向上し,皮膚の褐変を引き起こす2)。農作物および魚介類が洗浄などの工程で物理的な障害を受けると,チロシナーゼによる酵素的褐変が進行し,商品価値は著しく低下する3)。

未成熟果実中色素の安定化とその利用技術

栗原 正日呼、木幡 進、墨 利久、弓原 多代、浜辺 裕子

熊本県の八代地区はイグサの生産量が日本一と有名であるが,トマトの生産においても日本一であり,そのトマトは「はちべえ」ブランドとして流通している。形が悪いなどとして商品化できない果実は未成熟のまま「青トマト」として廃棄されており,資源活用や地域経済の視点から有効な活用が課題となっている。この青トマトの活用を考えた場合,ピューレやジャムとしての利用が考えられ,この場合「緑」の色調がその新奇さから重要な付加価値となると考えられる。青トマトの色素成分であるクロロフィルは,光合成時に光エネルギーを吸収する物質で,図1にその構造式を示す。中心に金属マグネシウムが配位しており,4つの環構造とフィトールといわれる長鎖アルコールが結合している特徴的な構造を有している1)。

食の安全:残留農薬・動物用医薬品の検査の実際

片岡 洋平、菊川 浩史

近年,食に対する健康・安全志向の高まり,食品の生産現場で使用される肥料や農薬等の資材の多様化,生産・加工技術の進歩や食品流通のグローバル化など,食を取り巻く環境は刻々と複雑化しており,これに伴う新たな課題が発生している。昨今の食品表示の偽装問題のみならず,特に今年になって起こった中国製ギョーザ事件では,原因が未だ解明されないままであり,食の安全に対する信頼が大きく揺らいでいる。このようなことを背景に,食の安全に対する意識の高まりと共に,安全性に関する取り組みやその評価方法が社会的関心事になりつつある。一方,世界的な人口増加に伴った食糧危機が懸念されており,地球温暖化など地球環境の変動に起因する異常気象により,食糧の確保や生態系の保全も危惧されている。このような状況下で現在の豊かな食生活を考えたとき,安定的かつ高品質の農業生産に農薬が大きく寄与してきたことは事実である。

チーズの規格基準と表示規制

石田 洋一

(1)乳等省令
 ナチュラルチーズおよびプロセスチーズについては,「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(昭和26年厚生省令第52号)(乳等省令)で以下のように規定されている。
 第2条16 「チーズ」とは,ナチュラルチーズおよびプロセスチーズをいう。
 第2条17 「ナチュラルチーズ」とは,次のものをいう。
  一 乳,バターミルク(バターを製造する際に生じた脂肪粒以外の部分をいう),クリーム又はこれらを混合したもののほとんどすべて又は一部のたんぱく質を酵素その他の凝固剤により凝固させた凝乳から乳清の一部を除去したもの又はこれらを熟成したもの
  二 前号に揚げるもののほか,乳等を原料として,たんぱく質の凝固作用を含む製造技術を用いて製造したものであって,同号に揚げるものと同様の化学的,物理的及び官能的特性を有するもの

薬現代韓国女性の美意識(1)−化粧文化からみる美意識の変遷と美容整形ブームの出現—

李 智英、三好 恵真子

「韓流」と称されるように,ブーム化を引き起こすほど,何かと注目されている韓国文化であるが,本稿では,現在世界的な美容整形大国に至る韓国の,特に女性たちの美意識について,2回の連載論文により考察してゆくことにする。
 こうした韓流ブームが到来する以前から,日本人が韓国に対して抱いているイメージとして,「焼き肉」,「キムチ」,「美人」が上位三つである1)とされるように,「韓国には美人が多い」との先入観がすでに定着していた。そしてその最大の理由は,韓国女性の肌の美しさやスタイルの良さにあると考えられる。

築地市場の魚たち 築地市場魚貝辞典

山田 和彦

これまで,築地市場に入荷する魚貝類を様々な角度から見てきた。これらは,市場内外で多くの方から寄せられた問合せと筆者の乏しい知識を元に,表題ごとにまとめなおしたものである。よく聞きかれた質問の1つに,調べようとした名前が本に出ていない,というのがあった。以前もふれたように,魚貝類の名称は,多種雑多である。そこで,今回から築地市場に入荷する魚貝類を五十音順に並べて紹介しようと考えた。ここには図鑑に出ている名前を中心に,市場名や,若干の地方名も含めようと思う。また,標準和名で示した魚貝類には,簡単な解説も付けて調べるときの参考になるようにした。なお。片仮名表記は標準和名のもの,平仮名表記は市場での呼び名や地方名などとした。

薬膳の知恵 (29)

荒 勝俊

人体は一つの有機的統一体であり,局所における変化は全身に影響を及ぼし,内臓の変化は五官,四肢,体表などに変化を及ぼす。こうした観点から,中医学における証の診断は,舌を観察し,脈を診断し,声を聞き,症状を尋ねる事で,体の各方面に現れた変化を情報として取り出す事で行われる。具体的には,視覚により全身および局所の状態を観察する「望診」,聴覚と嗅覚により声や分泌物の臭いの異常を知る「聞診」,本人や家族から自覚症状,愁訴を詳しくたずね,病気の経過,熱・汗・食欲など診断に必要な情報を収集する「問診」,直接触れて診察する「切診」の4種類の診断方法(四診)から構成されている。四診で得られた情報を整理・分析し,「証」を見極める事で各々の状態により適した治療方法を選択する根拠(弁証論治)ともなる。