New Food Industry 2006年 11月号

インスリン抵抗性がもたらす多くの現代疾患とインスリン抵抗性改善成分グリスリン

安西 英雄

インスリンといえば,古典的にはもっぱら糖尿病との関係においてその役割が認識されてきた。しかし近年,インスリンの機能不全は実は多くの疾患の発症に深く関わっていることが示されつつある。本稿では,糖尿病,メタボリックシンドローム,PCOSの3疾患を代表として取り上げ,それらにおけるインスリンの役割とインスリン抵抗性について述べ,インスリン抵抗性を改善するマイタケ成分グリスリンの作用と,その臨床応用の可能性について論ずる。

温州みかんの抗アレルギー作用

小林 彰子、高柳 雅義、田辺 創一

温州みかんに抗アレルギー作用があることは久保ら7) やParkら8) によって報告されている。しかし,どの成分が実際に抗アレルギー作用を有し,またどのようなメカニズムで実際に生体内で効いているのかについては,統一見解があまりとられていなかった。ここでは,著者らが得た温州みかんの抗アレルギー成分および作用メカニズムに関する新知見を述べ,さらにそれらを元に活性成分の消化管内における代謝と生体内における作用仮説について報告する。

放射線の胎児影響に対するハタケシメジの放射線防護効果検討

具 然和

本研究では,ハタケシメジの放射線に対する催奇形性の防護効果を検討し,放射線防護剤の基礎研究に資することを目的とする。ICRマウスを用いた動物実験では,器官形成期に放射線を照射した場合における,胚死亡,胎児死亡,胎児体重,外表奇形発生,および骨格奇形発生について統計し,ハタケシメジの放射線防護効果を報告する。先行実験により,すでにハタケシメジの抗腫瘍効果,血圧効果作用,コレステロール降下作用,抗酸化作用等が報告されている。

代替医療としての桑の実ジュースの機能性

坂上宏、小林正樹、古賀紀子、高橋仁美、立川理恵子、田代忠正、長谷川彰彦、佐藤和恵、栗原華絵子、五十嵐武、金本大成、寺久保繁美、中島秀喜、中村 渡

桑の実ジュースは栄養に富むが,その薬理作用,また,生体にとり有益であるか否かについては不明であった。最近,我々は,桑の実ジュース(ストレート)が,マウスに強制的に水浸拘束ストレスを負荷させた時の血漿中の過酸化脂質の濃度の上昇を抑制することを見いだした6)。今回,桑の実ジュースの種々の薬理作用に関する我々の研究成果をまとめ,代替医療としての機能性について検討した。

「食を総合的に学習する食育」の場としての学校給食の役割

三好 恵真子、下島 さやか、正 まき子

本論文では,現在改めて食育が重視される背景や現行の学校給食の問題点を整理した上で,食育の視点を取り入れた学校給食の先駆的取り組みの事例を比較分析しながら,学校給食の持つ多様な可能性やその役割などを明らかにする。その際,特に筆者らが行ったフィールド調査における事例(滋賀県彦根市立城陽小学校における多角的な実践)等を示すことにより,「食を総合的に学習する」食育実践に必要となる要素の具現化を試みようと思う。さらにこれらの結果を踏まえながら,学校給食を食育実践の場として昇華させるために残された課題や今後の展望についても言及したい。

輸入食品の安全性問題

藤田 哲

食品添加物の安全性は消費者の行政に対する不信感もあって,科学データ(主に動物試験データ)で安全性に対する根拠が示されても消費者はなかなかそれをすんなりと受け入れることが少ないようです。食品添加物の安全性は倫理的な問題もあってヒト試験で確認することは難しく,そのため動物の毒性試験データに基づいて評価されるのが一般的です。医薬品のようにヒトを対象に行う臨床試験(治験)のデータによってその安全性が評価されれば,納得が得られるかもしれませんが,食品添加物の場合,承認前にヒト試験を実施することはほとんどありません。

海洋未利用資源(富山湾産ゲンゲ)の有用成分抽出

遠藤 隆浩、高橋 雅人

今回,研究対象としたゲンゲならびに同属種は南極海から北極海,干潮時に干上がった浜の石の下および超深海まで幅広く生息が確認されている。本研究に用いたゲンゲは富山湾産のカンテンゲンゲであり,このカンテンゲンゲは水深300m付近に生息する深海性の魚類である。蟹漁の漁網で多量に捕獲されているが,その利用は水揚げされる漁港周辺の一部地域に限定されている。

伝える心・伝えられたもの —「うこぎ」と石栗正人先生—

宮尾 茂雄

東京を早朝に発ち,米沢駅に降り立ったのは,午前9時前であった。6月の土曜日のせいか,新幹線から降りる人も少なく,駅前の人通りもまばらであった。真夏を思わせる太陽が輝く静かな駅前で待っていると,「紅葉マーク」を付けた車が停まった。今回,上杉15万石の城下町であった米沢を案内していただくことになった石栗正人先生の車である。先生は今年82歳になられるが,「うこぎの町米沢かき根の会」の顧問や米沢生物愛好会の会長をされている。

薬膳の知恵 (6)

荒 勝俊

中医学では自然界に存在する森羅万象と人間は互いに強く影響し合って調和していると考えられてきた(一体不二)。人間の生命力が充実して輝いている時には,外部から病邪が体内に進入しようと襲ってきても負けることはない。ところが人間の内面の生命力(免疫力など)がストレスや栄養不足,寝不足といった不摂生で弱っている時には,病邪に犯され,病を引き起こす素地が作り出される。こうした人体の生命力の源となる基本物質に“精”,“気(き)”,“血(けつ)”,“津液(しんえき)”があり,臓腑や経絡の機能活動を司る基礎物質として働いている。“気”とは活発に活動するエネルギーを指し,“血”とは基本的に血液を指し,“津液”とは人体の水液成分を指す。

中国食品通信・醸造酢および緑色食品の最近の動き

馬 桂 華

江蘇省の恒順集団有限公司、北京市の王致和、四川省の保寧、天津市の天立独流、山西省の老陳酢および山西省の水塔老陳酢の中国酢製造の6大有名企業は、6 月11日に山西省で協力会議を開催した。会議では、中国の醸造酢業界が一致協力することにより国際的に通用するブランド製品となる酢の製造を目指すことを提唱した。宣言の中で、6大醸造酢企業は自主商標(マーク)を育成し、新機軸を打ち出す能力を高め、純粋な原料を用いて酢を製造することにより、誠実で信頼されるブランドを確立するとともに国際貿易の規則を遵守し、多角的に市場を開拓することを表明している。

味覚に対する脂質の存在意義と適応性— 味の受容の伝達機作 —

中谷 恭子

味覚は生物が生存していく上で欠くことのできない感覚である。ほ乳類が知覚する基本味は,甘味,塩味,酸味,苦味そしてうま味の5つである。5つの基本味には,大きく分けて2つの生物学的な意味を持つと考えられる。第1に生命維持の必要性を近くする味。甘味,うま味および塩味は生きていく上で必要な物質が含まれているために食物として体内に積極的に摂取する必要があることを知らせる。