New Food Industry 2020年11月号

一臨床医から見た保健機能食品について
新興・再興ウイルス感染に予防効果が期待される保健機能食品

窪田 倭 (KUBOTA Sunao)
 
 ヒトとウイルスとのかかわり(感染)は,人類が誕生した600〜700万年前の時点で既にあったことが推定されている1)。その後のヒトとウイルスとの長い闘いの結果,天然痘(痘瘡ウイルス)は1979年に世界から撲滅され1),ポリオ(急性灰白髄炎)は2011年以後我が国において発症は見られず2),いずれもウイルスに対するワクチンの効果にて制御された。ここに人類はウイルスとの長い闘いに勝利できたと信じた。しかし,20世紀には1918年のスペイン風邪,1957年のアジア風邪,1968年の香港風邪と3度の世界的大流行(パンデミック)と,1977年のソ連風邪の中規模に流行したインフルエンザウイルス3)や,今世紀2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルス(SARS-CoV-1),2013年にMERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルス(MERS-CoV)などがヒトを新たに苦しめることになった4)。さらに2019年末に中国湖北省武漢市で発生した新型(新興)コロナウイルスによる感染症はCOVID-19 と称され,急速に中国全土から世界へと拡散し,未だに感染拡大が続いている5)。ウイルスの新たなる脅威が認識される事態となった。
 何故に同じ科のウイルスがほぼ数十年周期で流行するのか。何故に同じウイルスが第一波の感染後,時を移さず第二波の感染拡大するのか。何故に近代になりウイルスによる世界的大流行(パンデミック)が起こるのか。何故に既存の抗ウイルス薬が新型ウイルスに効果がないのか。これらの疑問に対して,ウイルスは動物や植物さらに細菌に寄生して,それらの機能を利用して自己増殖しなければならないこと,容易に異なるウイルスに変異できる機構を持っていること(特にRNAウイルス)などが挙げられている6)。さらに動物からヒトへ,ヒトから人ヘの伝搬感染中に突然変異して,感染力を広げることが新たに知られるようになった7)。現代は高速大量輸送の時代,ヒトも物も数時間で地球上のあらゆる場所から場所に移動できる状況下にある。呼吸器親和性ウイルスの特性である咳,くしゃみによる飛沫感染と物に付着しての接触感染による自己増殖(子孫)できるウイルスにとっては最適の環境となっている。
 ウイルスとヒトとの長い闘いにおいて,ウイルス側には上に記載したようにヒトへの感染は,現在非常に容易になった環境下にある。一方,宿主側のヒトにはウイルスに対する感染防御機構(自然免疫および獲得免疫)が進化しながら発達してきている。しかし,新型コロナウイルスや新型インフルエンザウイルスによる世界的大流行が起こると共に,いったんこの防御機構が破綻すると重症肺炎から死へと最悪の経過を取る症例も増えている8, 9)。
 季節性インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス薬や,ワクチンはそれなりの効果は認められている。しかし,ヒトがこれまで全く経験してなかった新たなるウイルスの感染に対しては,既存の抗ウイルス薬やワクチンは機能しないのが,今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)において改めて知らされた。
 これからは次から次へと変異するウイルスとの闘いの時代となった。変異するウイルスに既存の抗ウイルス薬やワクチンが期待できないとすると,ヒトに備わっている外敵から身を守る感染防御機能(免疫機能)の向上を計り,感染予防に力を注ぐべきである。呼吸器系感染を主とするウイルスが細胞内に侵入する前に関門(バリア)としての口腔,鼻腔,気道の粘液,そこに含まれる抗菌作用物質,中和抗体,粘液型IgAなどの免疫機能として重要性が指摘されている10)。中でも粘液型IgAはウイルス感染防御の重要な役割を演じている。
 本解説においてウイルスについての一般的なこと,外敵から身を守る最前線の防御機構(局所免疫),特に粘液性IgAについて,そして粘液型(唾液)IgAを産生し感染予防効果が期待される機能性食品について述べる。
 

研究解説
クマ笹葉アルカリ抽出液(ササヘルス®)は,瞬間的にウイルスを不活化する
Rapid virus inactivation by alkaline extract of leaves of Sasa sp.

坂上 宏(SAKAGAMI Hiroshi),福地 邦彦(FUKUCHI Kunihiko),浅井 大輔(ASAI Daisuke),寺久保 繁美(TERAKUBO Shigemi),竹村 弘(TAKEMURA Hiromu),堀内 美咲(HORIUCHI Misaki),藤澤 知弘(FUJISAWA Tomohiro),勝呂 まどか(SUGURO Madoka),戸枝 一喜(TOEDA Kazuki),安井 利一(YASUI Toshikazu)5,大泉 浩史(OIZUMI Hiroshi),大泉 高明(OIZUMI Takaaki)
 
Abstract
 Alkaline extract of leaves of Sasa sp (Sasahealth®) (SE) almost completely inactivated both herpes simplex virus (HSV) and human immunodeficiency virus (HIV) within 90 seconds or 10 minutes at a concentration of 1/6~1/3 of the original solution. The HSV inactivating activity of 20 kinds of Kampo formulas were very weak, requiring more than 20 minutes of exposure time to completely inactivate these viruses. The mouthwash povidone iodine also instantly inactivated HSV, but its anti-HSV activity was one order lower than that of SE, due to its potent cytotoxicity. The present study suggests that the oral cleansing solution containing SE may inactivate the oral virus in a short time.
 
要約
 クマ笹葉アルカリ抽出液(ササヘルスR)は,原液の1/6〜1/3の濃度で,単純ヘルペスウイルス(HSV),ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染性を90秒,あるいは10分以内にほぼ完全に不活化した。漢方製剤20種のHSV不活化活性は弱く,完全に不活化するには、20分必要であった。うがい薬のイソジンも90秒以内にHSVを不活化したが,細胞傷害活性が強いため,有効係数はササヘルスRと比較して一桁低かった。ササヘルスRを添加した口腔内洗浄液は,口腔内ウイルスを短時間で不活化する可能性が示唆された。
 

NOTE
秋田県における保健機能食品開発:栄養機能食品としてのエゴマ種子油「翡翠®」

戸松 さやか (TOMATSU Sayaka),加藤 咲子 (KATO Sakiko),若泉 裕明 (WAKAIZUMI Hiroaki),佐々木 玲 (SASAKI Akira),畠 恵司 (HATA Keishi)
 
Development of food with health claims in Akita: HISUI®, perilla seed oil as a food with nutrient function claim
 
Authors: Sayaka Tomatsu 1, Sakiko Kato 2, Hiroaki Wakaizumi 2, Akira Sasaki 1, Keishi Hata 1
*Corresponding author: Sayaka Tomatsu 1
 
Affiliated institutions:
1Akita Research Institute of Food & Brewing, Sanuki, Araya-machi, Akita 010-1623, Japan.
2Azuma Trading Corporation, 14-1 Utou, Kyowa Funaoka, Daisen-city, Akita 019-2401, Japan.
 
Key Words: perilla, seed oil, α-linolenic acid, food with nutrient function claims,customer survey
 
Abstract
Background and aims: α-Linolenic acid comprises >50% of perilla (Perilla frutescens var. japonica Hara) and flax (Linum usitatissimum) seed oils, and was reported to have biological functions such as maintaining skin moisture, preventing ischemic heart disease, and anti-inflammatory activity. We developed bottled perilla seed oil (termed HISUI®) by squeezing it under pressure at room temperature. In the present study, we investigated the α-linolenic acid content in HISUI® to guarantee its quality. Furthermore, as clarification of why users purchase HISUI® and their feedback is important and useful for product promotion, we surveyed HISUI® users.
Methods: The analysis of α-linolenic acid was performed at a third-party analytical institution. The user survey was approved by the ethics committee of Akita Research Institute of Food and Brewing (Approval No. R2-03). The questionnaires including 7 questions about HISUI® were distributed to users at physical stores.
Results and discussion: Analysis of HISUI® demonstrated that the α-linolenic acid content in HISUI®, which was stored at room temperature in a dry place away from direct sunlight, remained over 57% (w/w) for 14 months after bottling, and we renewed it as a food with nutrient function claims. The subjective survey revealed that reasons for HISUI® usage were “taste” (14.8%), “supply of specific nutrients” (11.1%), “staying healthy” (11.1%), “skin condition” (14.8%), “slimming” (7.4%), “anti-aging” (7.4%), “a gift” (11.1%), and “miscellaneous” (22.2%). This suggested that over 40% users use HISUI® to improve health or skin conditions.
 

解 説
当院における栄養サポートチームへの歯科介入状況の検討

加藤 崇雄(KATO Takao)

 
要旨
 2016年より,栄養サポートチームに歯科医師が参加した場合,「歯科医師連携加算」が算定可能となり,積極的な参加が求められている。
 当院での現状について検討を行ったので報告する。対象は,2017年4月-2018年3月までの1年間に当院NSTで管理した112名を対象とした。年齢分布は33-90歳で,平均年齢は69.7歳であった。調査内容は,介入状況依,頼診療科,医科治療内容,歯科治療内容,残存歯数,義歯使用状況,経口摂取の有無,Eilers口腔アセスメントガイドの8項目とした。
 結果は,性別では男性の方が多く,年齢分布では50歳以上が優位に多かった。「介入状況」は歯科口腔科に診察依頼で介入が多く,60%であった。同様に依頼診療科は消化器外科が50名であった。「医科治療内容」は手術のため依頼が39%であった。「歯科治療内容」では口腔ケアのみが26%であった。「残存歯数」は20歯以上が43%であった。「義歯使用状況」は義歯を有していない症例が63%であった。「経口摂取の有無」は有りが64%であった。「OAG評価プロトコール」はP2が70%であった。
 フレイルの概念が最近注目されており,治療時の栄養状況は予後にも大きく関与している。NSTの歯科の介入は,積極的な経口摂取,口腔ケア,ADL 向上,栄養療法など多職種の介入により筋肉量を維持する可能性が示唆された。
 

Effect of New Coronavirus (COVID-19) on Food and Restaurant Industry

Ryusuke Oishi
 
Abstract
 In 2020, the situation in countries around the world including Japan has changed dramatically. A new coronavirus rapidly spread its infection and bustle of people disappeared from towns and cities. Self-restraint of people stagnates consumption and production activities in various industries and will greatly impact on its economy. This study investigates the business situation and finance of food manufacturing and restaurant industries in Japan. Our study argues that the situation and finance of the latter industries are significantly deteriorating in the recent months and is most likely to be due to the spread of virus infection. Moreover, during this time, the number of bankruptcies in the latter industry has increased, and many businesses are at risk of survival. The government is embarking on support for such businesses by providing loans and subsidies however, such support is far insufficient for many businesses’ long-term sustainability.
  
 

連載解説
商品開発(New product development; NPD):グルテンフリー食品製造の場合

瀬口 正晴 (SEGUCHI Masaharu),竹内 美貴 (TAKEUCHI Miki),中村 智英子 (NAKAMURA Chieko)
 
 本論文「商品開発(New product development; NPD): グルテンフリー食品製造の場合」は“Gluten-Free Cereal Products and Beverages” (Edited by E. K. Arendt and F. D. Bello) 2008 by Academic Press (ELSEVIER) の第18 章New product development; the case of gluten-free food products by A. L. Kelly, M. M. Moore and E. K. Arendtを翻訳紹介するものである。
商品開発(NPD)の紹介
 商品開発(NPD)とは,グローバル食品産業にとり鍵になる活動で,全てのマーケットにおいて短時間スケールで顕著に変化をしている。例えば新製品の登場,それはライフサイクルの終わりには撤回され,多くの既存製品は,消費者には知られないが,加工,配合,また包装が変更されている。新しい製品の,あるいは既に存在している食品製品の加工と進歩は,ここではNPD活動と考えられ,いくつかの鍵になるドライバーがある。最も一般的には,食品会社は消費者の要求とマーケットの流れで動く。二次的動きは食品加工技術で,成分の機能性,食品仕込みと加工上の科学的理解の変化によるもので,それらが新食品に可能性を与える。登録あるいは食品調整の変化が,会社に食品の修正と新製品を作らせるが,例えばそれが食品仕込み中のある成分を減らさねばならないとか,あるいは,除去せねばならない時もある(例えばズダン赤食用色素や食用塩のとりこみ)。食品製品に対する消費者の要求は複雑で,多くの外的要求が短時間のうちに生じ,さらにそれは予想できない時間枠内で変化する。この消費者の希望の変更が食品会社に要求されれば,そこのマーケット専門家を通じ企業の科学的,技術的能力により新製品開発は達成されねばならない。競争力をもち,この章で説明するNPDの段階と目的を効果的にナビゲートするにはスピードをもって迅速に対応する必要がある。
 

海外紀行文 2019年夏のスコットランド紀行
-ビフォーコロナ-(1)エディンバラ
Summer 2019 Scotland Journey - Before COVID-19 - (1) Edinburgh

 林田 千代美(HAYASHIDA Chiyomi)
 
Abstract
 The Scottish Edinburgh Festival, which had been held since 1947, was canceled this year, due to the spread of COVID-19. I traveled southeastern Scotland (Edinburgh, Fife and the Scottish Borders) in the last summer with my family.  In this three-part series, I would like to introduce these impressive council areas one by one, hoping early disappearance of this COVID-19.
 
要旨
 2020年,COVID-19の世界的大流行により,1947年から開催されてきたスコットランドのエディンバラ・フェスティバルが中止された。私は2019年にスコットランド南東部(エディンバラ,ファイフ,スコティッシュボーダーズ)を旅行し,その文化に感銘を受けた。これらの印象的な地区を1つずつ3部構成のシリーズで紹介していきたい。
 
 

コーヒー博士のワールドニュース
コーヒー成分とCOVID-19

岡 希太郎(OKA Kitaro)
 
 自称「健康ママ(Holistic Mama)」のDr. Elisa Songは,「健康な子供,幸せな子供」のキャッチフレーズでホームページを公開しています。新型コロナウイルスについては,ブログ「私のボディベア」に,マスクの重要性など,子供を感染から守る情報提供をしています。中でも「子供は何故COVID-19に罹らないのか,罹っても軽く済むのは何故?」の疑問に答える記事が示唆に富んでいます。彼女の記事によれば,新型コロナウイルスは細胞膜のACE2を受容体として感染するのですが,子供の血液には,溶けているsACE2があり,これをウイルスが細胞への入り口と勘違いして結合するのです。すると今度はマクロファージがそれを異物として捕獲して,消化分解してなくなるのです。血液に溶けているsACE2は,膜についている受容体のデコイであって,これを多く持っている子供は感染しても軽く済むのですが,あまり持っていない大人や特に高齢者は重症化してしまいます。そこでDr. Elisa Songは「知識は力ですから,sACE2を増やす方法を知って実践することが大事です」と言って,次の5項目を挙げています。
1.  適度な有酸素運動で適度な活性酸素を作る
2.  快適な睡眠でメラトニンを増やす
3.  クルクミン
4.  ビタミンD
5.  ビタミンA
 これら5項目の出展を調べてみると,どれもが確かな情報であることが分かります。さらに,調査で分かったことは,他にもいくつかあるということ,特にクルクミンはウコンのポリフェノールですが,ウコンに限らず一般的にポリフェノールがsACE2を増やすとの論文が複数見つかりました。著者にとって嬉しいことに「コーヒーのポリフェノール」も見つかりましたし,ナイアシンについては,長寿遺伝子が絡む複雑なメカニズムであることも分かっているようです1)。
 

 — 身近な山野草の食効・薬効 —
トウガラシCapsicum annuum L.(ナス科 Solanaceae)

白瀧 義明(SHIRATAKI Yoshiaki)
 
 秋風が頬に心地よく吹き抜ける頃,ハイキングをしていると山裾の畑のあちこちで赤い実を付けたトウガラシの株を見かけることがあります。トウガラシ(唐辛子,蕃椒,中国名:辣椒)は,熱帯アメリカ(メキシコ〜ペルー)原産の多年草または低木(日本など温帯では一年草)で,草丈は40〜60cm。茎は多数に枝分かれし,卵状披針形の葉は互生で柄が長く,7〜9月頃,直径2〜3cm,雄しべ5〜8本,5〜7裂した花冠の白い花を横向きにつけます。花後,上向きに緑色で内部に空洞のある細長い実がなり,熟すると赤くなります。品種によっては丸みを帯びたものや短いもの,色づくと黄色や紫色になるものもあります。トウガラシは,1493年,新大陸到達で知られるクリストファー・コロンブスCristoforo Colombo(イタリア語)がスペインへ持ち帰ったことによりヨーロッパ全域に広がり,以後,シルクロードを経てインドや中国に伝わり,日本へは,16〜17世紀に複数のルートで伝わったとされ,1542年にポルトガル人によってタバコとともに伝来したという説や1592年の豊臣秀吉による朝鮮出兵のとき,種子が導入されたという説などがあります。
 

デンマーク通信
デンマークのパンケーキ

Naoko Ryde Nishioka
 
 コロナウィルス拡大の懸念が最近になって再度高まっており,9月中旬より多くの会社では在宅勤務を推奨したり,50人以上の集会を禁止したりと,夏に一時期緩和された社会的な制限が戻りつつあるこの頃です。10月になり,デンマークは秋に突入,森や林の木々はまだまだ緑の葉っぱをつけている木が大半ですが,これからの数週間で一気に色づき,落ち葉となります。10月は秋休みの月でもあり,1週間ほど学校などは休みになり,職場でも休みをとって旅行をする人が多いのですが,今年はコロナウィルスの状況から,旅行へ行く人も例年に比べ少ないようです。デンマークは小さな国で,もともと旅行好きの人が多く,コロナ禍での旅行制限はデンマーク人の日常生活に,大きな変化をもたらしているようです。さて,今回は週末や休みなどの機会によく見かけるパンケーキを紹介します。