New Food Industry 2020年 9月号

原著論文

 

食餌性肥満ラットにおけるピーナッツ渋皮エキスの抗肥満効果

曽川 美佐子,岡 実紗,寺西 弘志,上前 健太朗,山本 正次
 
Peanut skin extract reduces body weight and fat in diet-induced obese rats
Author: Misako Sogawa 1 Misa Oka 1 Hiroshi Teranishi 2 Kentaro Kamimae 2, Masatsugu Yamamoto 2
Corresponding author: TMisako Sogawai
1 Training Department of Administration Dietitians, Faculty of Human Life Science, Shikoku University,
2 KISCO LTD.
 
Key Words: Peanut skin extract, polyphenols, obese rats, high fat diet, body fat%, triacylglycerol, total cholesterol
 
ABSTRACT
 
  Peanut skin extract (PSE) has previously been shown to improve type I diabetes mellitus in streptozotocin-induced diabetic rats and reduce the body weight of diet-induced obese rats during a weight-loss regimen. In this study, we examined whether administration of PSE produced an anti-obesity effect in rats concomitantly fed a high-fat diet.
  Fourteen male Wistar rats (7 weeks old) were divided into two groups. The control group was fed a 25% (w/w) high-fat diet and the PSE group was fed the same diet supplemented with 1.48% of PSE for 10 weeks.
 At the end of the treatment period, % body fat of the PSE group was significantly decreased compared to the control group, clearly indicating that PSE has an effect on the control of fat accumulation. In addition, it was found that PSE supplementation improved lipid metabolism, as evidenced by decreased levels of TGs and total cholesterol in the plasma and liver of the PSE group. Furthermore, PSE supplementation tended to increase % body protein. A significant increase in fecal weight was observed in the PSE group, indicating that PSE promotes bowel movement.
 
要 約
 我々は、これまでにピーナッツ渋皮エキス(以下PSEと略す)が、肥満や糖尿病に及ぼす影響について研究を行なってきた。今回は、高脂肪食を与えた肥満ラット作成時に、PSE投与により抗肥満効果を示すかについて検討した。
 7週齢のウイスター系雄ラット14匹を2群に分け、1群は対照群、もう1群はPSE群とした。対照群のラットには25%高脂肪食を、PSE群には25%高脂肪食にPSEを1.48%加えた食餌を10週間にわたり自由摂取させた。10週間後、PSE群の体脂肪%は有意な低値を示し、PSEには体脂肪蓄積を抑制する効果があることが認められた。また、PSE群の血漿及び肝臓中のTGと総コレステロール値は低値を示したことから、PSEには高脂肪食投与時の脂質代謝を改善する効果があると考えられた。一方、PSEは、体タンパク質%に対しては増加させる方向に働いた。糞重量はPSE群で有意に高値を示したためPSEには排便促進効果があると考えられた。PSEは肥満ラットの体重及び体脂肪の増加を抑え、排便促進効果を持つことから、食習慣や生活習慣の乱れによる肥満を予防する効果があることが示唆された。
 
 

研究解説

活性酸素種生成によるメイラード反応への関与とそれに対する中鎖脂肪酸含有油脂の効果

豊﨑 俊幸
 
Effect of medium-chain tryacylglycerols on reactive oxygen species in light-induced Maillard reaction
 
Corresponding author: Toshiyuki Toyosaki
Department of Foods and Nutrition, Koran Women’s Junior College, Fukuoka, 811-1311, Japan
 
Key Words: Medium-chain triacylglycerols (MCT); Long-chain triacylglycerols (LCT); Maillard reaction; Irradiation; Reactive oxygen species (ROS); Superoxide dismutase (SOD); Superoxide anions (O2-); Hydroxy radicals (・OH)
 
ABSTRACT
 The primary objective of this study was to investigate the involvement of reactive oxygen species (ROS) in the induction of Maillard reaction in the presence of medium-chain triacylglycerols (MCTs). Photoirradiation was found to induce Maillard reaction in a glucose-lysine system and led to the generation of ROS. The glucose-lysine Millard reaction was clearly inhibited by the presence of MCTs. Enhancement of this inhibitory effect by the addition of superoxide dismutase (SOD) confirmed that ROS are generated by photoirradiation and that the generated superoxide anions (O2-) and hydroxy radicals (・OH) promote induction of the Maillard reaction. It is, hereby, proposed that the primary mechanism by which ROS contribute to the induction of the Maillard reaction involves the generation of ・OH through the reaction of O2- and H2O2 (Haber-Weiss reaction).
 
要 約
 中鎖脂肪酸含有油脂(MCT)存在下でのメイラード反応誘導に活性酸素種が関与しているのか確認することを主目的として研究を遂行した。その結果,グルコースーリシン系において,光照射することでメイラード反応の誘導が確認され,併せ活性酸素種が生成されていることを確認した。MCT存在下におけるグルコースーリシン系ではメイラード反応の抑制効果が顕著に現れた。その抑制効果はSOD添加により強く現れたことから,光照射時に活性酸素種が生成され,生成されたスーパーオキシドアニオン(O2-)およびヒドロキシラジカル(・OH)によりメイラード反応の誘導が促進されている事実を確認した。活性酸素種の生成機構は主にO2-と過酸化水素(H2O2)との反応(Haber-Weiss reaction)によって生成されるヒドロキシラジカル(・OH)がメイラード反応の誘導に大きく関与している可能性が高いものと推察された。
 

製品解説

食品工場用除菌剤の新たな可能性

柳沢 俊英
 
 食品工場用のサニテーション薬剤として使用される除菌剤はその名の通り,食品工場の器具・機械類,床等の除菌を目的として使用されている。除菌剤には除菌のみを目的とするものや除菌と切っても切れない洗浄を同時に行えるものがある。除菌成分として代表的な次亜塩素酸ナトリウムについても次亜塩素酸ナトリウムを主とするものと洗浄剤を配合したタイプが一般的に普及しており,食品工場においても除菌剤に洗浄性が求められる。
 一方,近年においては冬季のノロウイルスの流行が二枚貝などによる食中毒由来だけにとどまらず,感染者からの二次汚染を介した感染例もあり,食品工場においてもウイルス対策を含めた作業員の衛生管理に注意が払われるようになっている。ウイルスの場合,微生物とは異なり自己増殖しないことから,器具・機械類からの更なる食品への大量汚染の可能性は少ないと考えられるが,ノロウイルスなどは少量で発症することから,弊社においてもサニテーション薬剤のノロウイルスへの効果の問い合わせがある。
 そこで本報告においては食品工場で使用される弊社カチオン系除菌剤(ビオサイド®,バクトクリーン®,ビオフォーム)のウイルスへの効力試験結果と一般的な洗浄剤と除菌洗浄剤の洗浄性の比較,改良による洗浄性の向上について報告する。
 

四種の異なるもちもち食感実現のための加工澱粉の選択について

東川 浩
 
 様々な食品において,もちもち食感を謳った製品が多くみられる。いまだにもちもち食感は,餅を食べる文化を持つ日本人が最も好む代表的な食感であり,様々な調査結果においても幅広い世代において性別を問わず,その支持率は根強いものがある。日本人の嗜好に合ったもちもち食感の食品が,製麺,製菓,製パン,デザート等を中心に開発されてきたが,一言にもちもち食感といえども,その食感は複合的な食感の要素から成り立っている。また,一概にもちもち食感と言っても,様々なタイプに分類されると考えられる。本稿では,異なる種類のもちもち感を実現するための加工澱粉使用のアプローチについて,提案する。
 
 

新解説 穀物ベースのグルテンフリー機能性飲料(1)

瀬口 正晴 (SEGUCHI Masaharu),竹内 美貴 (TAKEUCHI Miki),中村 智英子 (NAKAMURA Chieko)
 
 巨大な産業国(アメリカ,ヨーロッパ,日本)では,栄養と健康に対する消費者の関心が近年大きく変化した。栄養と健康のライフスタイルは,病気のリスクを減らして健康を増進するとし,健康に大きな注目を引き起こしている。これは果物,野菜,全粒食品のような食料,あるいは産業的に製造される食品で付加的健康価値をつけるものへの関心の増加にむすびついてくる。Frost and Sullivan(management consultancy, www.frost.com)の研究によると,ヨーロッパ市場における機能性飲料は1999 年23.5 億米ドルから2006 年57.3 億米ドルに成長した。機能性飲料は,他の飲料同様,一般的に簡単に利用でき,すばやく消費できるメリットがある。1980 年台,健康を目標とした特別の食品と病気の危険性を回避した特別の食品の紹介のあと,「機能性食品」の考え方が日本から始まった。
 一般に,機能性食品は,一般栄養価の一部が消費に適している食品と考えられ,さらに生理的に活性のある成分で健康を増進し病気の危険性を下げるものを含んでいる食品と考えられる。この定義は消費者にとり長所であり,食品産業 にとり改革の可能性に影響する。
  

随 想

油脂を蓄積する酵母L. starkeyiと向き合う

兎束 保之
 
 酵母L. starkeyiをYM培地中で培養すると,培養を開始してから最初の1日は,細胞の大きさはやや大きくなるものの,その中に形成されている脂肪球の大きさには目立った変化は観察できない。培養日数がさらに長くなるに連れて,菌体も脂肪球も大きくなってゆく。これは菌体増殖の経過を継続的に顕微鏡で観察した,全ての実験者の印象であった。ところが顕微鏡の視野に入る菌体を個々に観察すると,細胞の大きさにも脂肪球の大きさにも相当なバラつきがあった(図1)。顕微鏡で観察できる視野全体の印象を言葉で表現するだけでは,確かな事実として公表,すなわち学会発表が出来ない。客観的に評価できる数値にしてこそ,先ずは自分達で実験の再現性を確かめられるし,得られた実験結果を中心にして他の研究者達との討論が可能になる。この客観的な数値で表現する方法の開発に取り掛かる前に,出芽で増殖する酵母がたどるべき生物としての状態変化に,理解を深めておきたい。
  

コーヒー博士のワールドニュース

手網焙煎で浅煎り,深煎りブレンドの作り方

岡 希太郎
 
 コーヒーの人気が高まっています。最近の傾向として,以前ほど深く煎らないで,やや酸味を残した浅煎り系の人気が高まっています。健康志向の面から,「ポリフェノーのクロロゲン酸」が浅煎りコーヒーに多いということも人気の理由かもしれません。ポリフェノールの持つ抗酸化性が「美と若さのもと」になるということで,筆者は,ブレンド法特許に基づいて「クロロゲン酸」と「ニコチン酸」を多く含んだブレンドを創作し「希太郎ブレンド」を製品化しました。
 

 — 身近な山野草の食効・薬効 —

ガマTypha latifolia L.(ガマ科: Typhaceae)

白瀧 義明(SHIRATAKI Yoshiaki)
 
暑かった夏が過ぎ,秋の気配が漂い始めた頃,池や沼の畔を歩いていると,まるでソーセージを串に刺したようなものを見かけます。いわゆる「ガマの穂」です。ガマ(蒲,中国名:香蒲)は,ガマ科に属する多年草の抽水植物で,北半球の温帯から熱帯の温暖な地域,さらにオーストラリアに分布し,日本では北海道・本州・四国・九州の水辺に自生しています。別名をミズクサ,ミスクサ,ミスグサ(御簾草),キツネノロウソク(狐の蝋燭)ともいい,古くはカマとよばれ,その語源としてガマの葉を編んでむしろや敷物を作ったことから朝鮮語のカム(材料)に由来するとの説があります。ガマは高さ1〜2 m,茎は浅い水底の泥の中の根茎から直立し,葉は線形で厚く,下部は鞘状に茎を抱き,断面は三日月形,内部はスポンジ状です。花は6〜8月に咲き,葉よりも高く茎を伸ばし,頂に円柱形の花穂をつけ,上部は黄色い花粉をまき散らす雄花穂,下部の緑色部は雌花穂で,雌雄花穂はつながってついています。穂の上半分の雄花穂は細く,長さ7〜12cm ,開花時には黄色い葯が一面に出る風媒花です。花穂の下部の雌花穂は,長さ10〜12 cm,直径は約6mm,雄花も雌花も花びらなどはありません。花が終わると,雄花は散って軸だけが穂の上に立ち,雌花穂は茶褐色になり1.5〜2 cmと太く,ソーセージに似た形の「ガマの穂」になります。雌花は結実後,綿クズのような冠毛を持つ微小な果実となり,果実は,長い果柄の基部に穂綿となる白い毛がつき,晩秋になると,「ガマの穂」がほぐれて風によって飛散し,水面に落ちると速やかに果実から種子が放出されて水底に沈み,そこで発芽します。種子はわずかな衝撃によって果実から飛び散ったりします。
 

デンマーク通信

デンマークのシナモンパン

Naoko Ryde Nishioka
 
8月は日本では夏の真っ盛りですが,ここデンマークでは8月には夏休みもおわり,少しずつ秋めいてくる季節です。デンマークの田舎道を天気の良い日に車で走れば,収穫間近の金色に輝く畑が見られます。
 さて,今回はデンマークのシナモンパンについて紹介したいと思います。シナモンパンは,デンマークの子供から大人まで幅広い層に人気の菓子パンです。日本でもシナモンロールやシナモンパンなど,パン屋さんで売っていますから珍しい品物ではないですが,ここデンマークではシナモンパンはいろいろな場面に登場するパンで,その形や味のバリエーションもさまざまです。シナモンパンは,香ばしいKanel Remance(Kanelはシナモンというデンマーク語)というシナモンをつかったクリーム状の甘いペーストをパンにはさみ入れたり,塗ったりして焼き上げます。Kanel Remanceは,クリーム状にしたバターと,シナモン,砂糖をまぜてつくります。Kanel Remanceのレシピの一例を紹介すると,バター200グラムにつき,砂糖200グラム,シナモンパウダーを20グラムまぜます。この分量もみてもわかるように,甘くてオイリーなので,健康食材とはいえませんが,おいしいことは間違いなしです。このKanel Remanceを使えば,さまざまなシナモンパンができます。
 

 South Africa Communications

 Alpine plants live robustly in Table Mountain

 
On May 2019, our group of Meikai and Asahi Universities paid a courtesy visit to Western Cape University (UWC), one of our sister universities in South Africa. We landed on Pretoria airport, where we were welcomed by honorable Mohau Pheko, the former ambassador of the Republic of South Africa to Japan. She took us to her house by her big car and entertained us with traditional South African foods. We flew to Cape Town. We visited a nursing school with deans of UWC. They kindly gave me an opportunity to cover school cafeteria (kitchen, menu and interview with the chief chef), and lectures at the Faculty of Pharmacy. In front of me, very impressive flat-top “Table Mountain” appeared (Picture 1).