New Food Industry 2020年 2月号

論 説
塩素系漂白剤の保管条件による有効塩素濃度の経時的変化
Changes in the concentration of available chlorine over time as a result of storing the chlorine bleach

山田 正子 (YAMADA Masako),細山田 康恵 (HOSOYAMADA Yasue)
 
近年,我が国で発生している食中毒のうち,主な病因物質別にみた事件数は,ノロウィルスおよびカンピロバクターが多い。平成30年の食中毒1)の主な原因物質別に見た患者数はノロウィルスが最も多く,全患者数の約57%と半数以上を占めている。ノロウィルスによる食中毒の発生時期は冬季が多いとされていたが,平成30年は全月で発生している。原因施設別事件数では,飲食店,旅館,仕出し屋,事業所,学校の順で多かった1)。ノロウィルス感染が原因とされる食品はカキなどの二枚貝とされている2)が,平成30年の食中毒の原因食品別事件数では魚介類ではなく,「その他」が最も多く,次いで「複合調理食品」であった。この要因として,調理や食品製造に携わる人,およびそこからの二次感染による汚染が考えられる。ノロウィルスの感染経路としては,
(1)患者のノロウイルスが大量に含まれるふん便や吐ぶつから人の手などを介して二次感染した場合
(2)家庭や共同生活施設などヒト同士の接触する機会が多いところでヒトからヒトへ飛沫感染等直接感染する場合
(3)食品取扱者(食品の製造等に従事する者,飲食店における調理従事者,家庭で調理を行う者などが含まれる)が感染しており,その者を介して汚染した食品を食べた場合
(4)汚染されていた二枚貝を,生あるいは十分に加熱調理しないで食べた場合
(5)ノロウイルスに汚染された井戸水や簡易水道を消毒不十分で摂取した場合
とされている3)。
 このように,ノロウィルスの感染はいつでもどこでも起こる可能性があり,飲食店,旅館,仕出し屋や,特定給食施設である病院,高齢者福祉施設,学校,事業所などの飲食に関わる施設だけではなく,あらゆる施設,さらには家庭でも年間を通してノロウィルスによる食中毒の予防対策を行うと同時に,食中毒発生時の消毒方法を熟知しておくことが重要である。
 

メイラード反応初期過程の逐次反応解析および活性化エネルギー値の算出

秋山 美展 (AKIYAMA Yoshinobu),久保田 菜月 (KUBOTA Natsuki)
 
 メイラード反応とは,還元糖とアミノ化合物を加熱した時などに見られる褐色物質メラノイジンを生み出す反応のことであり,食品の非酵素的褐変反応としてよく知られている。メイラード反応の最終反応物質であるメラノイジンは,これら食品の非酵素的褐変において重要な役割を担っており,味噌や醤油など多くの食品の色調,香気,抗酸化能などに深く関与している。メイラード反応生成物には,抗酸化能を有する物質が複数含まれており,そのなかでもメラノイジンの抗酸化性は強いことが報告されている。このように,メイラード反応生成物は加熱食品や醸造食品などの色調や香気にも大きな影響を及ぼしており,食品のおいしさや生理機能性に深く関わっている。一般に,食品の加工工程における化学反応は温度の上昇により促進されるものが多く,メイラード反応はその代表的な反応であるが,比較的低温でも緩慢に反応は進行する。味噌などの経年変化による濃色化はその好例であろう1-3)。
 

研究解説
ミツバチ(Apis mellifera)の蜜胃に生存する新規乳酸菌フローラの検出と同定

アレジャンドラ・バスクス (Alejandra Vasquez),トビアス・オロフソン (Tobias Olofsson),訳:山路 明俊 (Akitoshi Yamaji)
 
要 約
 この研究は,蜂蜜の生成に役立つ花から,人間にとって有益な微生物をミツバチは収集しているのかどうかの疑問に関するものである。微生物の由来は,花,ミツバチの異なる器官,幼虫,様々な蜂蜜由来のもので,2年間をかけて収集した。分離物は16SrRNAのシーケンスとクローニングを用いた。ミツバチの蜜胃由来でLactobacillusBifidobacteriumを含む乳酸菌から構成される新規微生物フローラ(LAB)を発見した。それは,花蜜の種類や他の微生物の影響により変化したが,最終的には蜂蜜の中に集積したものである。ミツバチとLABはそれぞれ,相互に依存関係にあるように見えた。LABは蜂蜜の産生に関与していることから,蜂蜜は,発酵の産物と考えられることを示唆している。知見として得られるのは,今後の研究に明解な意味合いを持たせること,ミツバチの健康や,蜂蜜の産生と保存についての理解を助けること,さらには,ミツバチとヒトのプロバイオテクスとの関連性をより明らかにすることである。
 

解 説
ギャバは身近な食材で作れます

渡部 保夫 (WATANABE Yasuo),菊池 愛依里 (KIKUCHI Airi)
 
 ギャバ(γアミノ酪酸,GABA)という機能性アミノ酸は,コマーシャルなどでも時折取り上げられている昨今,次第に社会に認知されてきているようである。生物界に広く存在し,安全性の高いこのアミノ酸は,ストレス社会の現在,また,生活習慣病の増加が危惧される現在,重要度はますます高まっている。今回は,ギャバの機能性を再度ご紹介し,加えて,ギャバをたくさん含む食品を手軽に作ることができたので,各種農産物の加工産業において商品の差別化のための一つの方策として考慮していただければと考え,いくつか事例をご紹介する。
 

連載 解説
新解説 グルテンフリー製品への乳の利用

瀬口 正晴 (SEGUCHI Masaharu),竹内 美貴 (TAKEUCHI Miki),中村 智英子 (NAKAMURA Chieko)
 
 乳成分は,良好な機能的性質と最終製品に付与する栄養成分強化のため,古くから穀物加工品の生産に用いられて来た。また,加工品製造を容易にするために加えられてきた。乳成分は,グルテンフリー製品にも利用され,グルテンの構造タンパク質複合体の代替にされ,セリアック病を持つ人々に対して適したものにするため必要とされるものである。このような乳成分生産の全体像を適切な説明と共に,その利用とグルテンフリーパンの生産時に生じる問題点とともに示す。
 

製品解説
難消化性澱粉の低糖質製品への応用

東川 浩 (HIGASHIKAWA Hiroshi)
 現在,低糖質製品市場が活性化している。富士経済の調査によると,2018年度の低糖オフ,糖質ゼロ市場は,前年比4.6%増の3,514億円に拡大し,2019年度は前年比2.8%増の3,612億円に成長する見込みであるとのことである。いまだ市場の約9割はアルコール飲料分野であるとのことであるが,食品分野においても着実に成長しつつある。
 特に不溶性食物繊維である難消化性澱粉が四半世紀ほど前に市場に投入されてから,澱粉製品の品質改良(食物繊維含有量の上昇,加工耐性の改良,食感改良等),様々な分野でのアプリケーションの開発が進化してきた。
 長い時間は掛かったが,近年において小麦粉関連製品を中心に幅広く難消化性澱粉が応用されるようになってきた。
 

School cafeteria in the world (5)世界の学食(5)

– University of Siena (UNISI) – シエナ大学
Tiziana Doldo, Takafumi Ooka, Hiroaki Takanashi, Naho Yamamoto, and Hiroshi Sakagami
 
The University of Siena (UNISI) in Siena, Tuscany, Italy is one of the oldest and first publicly funded universities in Italy, and was founded in 1240. Today, the faculties of medicine, pharmacy, law, economics, and business at Siena University are well known. The historic city of Siena is said to be an ancient city, and in 1995 the entire town was listed as a World Heritage Site. A student exchange program between UNISI and two Japanese sister universities, Meikai University (MU) and Asahi University (AU), began in 2008.  On the Japanese side, one instructor (alternating MU and AU) leads four undergraduate students (two from MU, two from AU) and usually stays at UNISI for about a week in March. On the other hand, UNISI sends TD as an instructor for two students’ one week visit to both MU and AU universities in October. The year of 2019 was TD’s tenth visit to MU. TD reunited with TO (who was 2018's instructor) and HS (who was the chairman of the International Exchange Committee of Meikdai University School of dentistry from 1998 to 2014). TD introduced us about the cafeteria of UNISI.
 

連載 野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —

ヤブコウジArdisia japonica (Thunb.) Blume
(新エングラー体系,クロンキスト体系:ヤブコウジ科Myrsinaceae)
APG体系:サクラソウ科Primulaceae)
白瀧 義明(SHIRATAKI Yoshiaki)
 
春まだ浅い林の中,小さな赤い実をつけた常緑の小低木を見かけます。ヤブコウジ(藪柑子)は別名を十両(ジュウリョウ)ともいい,北海道(奥尻島),本州,四国,九州,国外では朝鮮半島,中国大陸,台湾に分布します。冬に赤い果実をつけ美しいので栽培もされます。草のように見えますが,実は木本で細く長い匍匐茎があり,斜上する茎は,高さは10〜30cmになります。茎の上部と若い花序には短い粒状の毛が生え,茎の2節あたりに深緑色で光沢があり,縁に細かい鋸歯のある6〜13cmの長楕円形または狭楕円形の葉を3〜4枚輪生します。
 

連載 漢方の効能
マスティック樹脂の薬理活性と臨床応用
Pharmacological actions and clinical application of mastic resin

 
Abstract
Mastic showed pronounced selectivity against hydroxyl radical scavenging, anti-Porphyromonas gingivalis activity and anti-human leukemia activity, while it showed weak or mild anticancer activity against oral squamous cell carcinoma cells and anti-inflammatory activity in LPS-stimulated rat RAW264.7 cells. Treatment by mastic gel paste of patient who shows bleeding due to the mobility of upper right 4th and 5th teeth improved the gingival inflammation.
 
要旨
 マスティックは,ヒドロキシラジカル消去能,抗菌作用,白血病に対する抗癌作用に対して高い選択性を示した。一方,抗ヒト口腔扁平上皮癌細胞毒性と抗炎症作用は軽微であった。上顎右側第一,第二臼歯の動揺による歯肉より出血,歯肉に発赤・腫脹がある患者に,レーザー照射と漢方洗口剤マスティックジェルを塗布すると,歯肉炎が改善した。
 

デンマーク通信

デンマークの冬
 デンマークの冬はクリスマスの時期に一番暗くなり,それをすぎると毎日少しずつ日照時間が伸びて,春に向かい始めます。「北欧は寒い」というイメージですが,デンマークは,気温からするとそれほど極寒の地ではありません。ただ,日照時間が短いため,昼間と夜の気温差が少なく,終日0℃から4℃の間であることも珍しくありません。雪も降るには降りますが,数週間降り続いたり,積雪したりすることは稀です。
 

パネルディスカッション 産・学・官に期待される役割と課題

― 食の開発を中心にして ―
NPO 法人21世紀の食と健康文化会議
 それらのシンポジウムなどで行われる専門家による講演やパネルディスカッションの内容は,特に食に関わる研究者ならびに食に関心を持つ一般消費者の方々すべてに大変有意義なものと考えております。これらの情報を当NPO法人の機関誌に纏めるなどしておりますが,当NPO法人の活動範囲が首都圏エリアに偏っていることもあり,限られた方々にしかご紹介する機会がなく残念に思っております。
 当NPO法人のシンポジウム開催時にもご協力いただいたニューフードインダストリー編集部から誌面への掲載機会をいただいたことで,より多くの皆様へご紹介できる運びとなりました。2015年に開催されたシンポジウムではありますが,広く食に関わる皆様にお役立ていただけることを喜ばしく思うとともに,このような情報の共有が今後の食品業界を支える礎を築いていくものと信じております。
 これからも当NPO法人を刷新し,産・学・官必要に応じて民の協調体制を強化して正しい「食と健康の科学」の発展を基盤にして健全な健康長寿社会の進展を目差して鋭意活動していきたいと思っております。
パネルディスカッションの氏名・所属につきましては開催時のものとなっておりますのでご了承ください。
NPO 法人 21世紀の食と健康文化会議 
事務局長 島崎秀雄