New Food Industry 2022年 64巻 11月号

解説

対馬島と台湾で食されている発酵したハチミツの酵母の種同定と遊離アミノ酸組成について

高橋 純一(TAKAHASHI Jun-ichi),近野 真央(CHIKANO Mao),井上 諒(INOUE Ryo),田村 直也(TAMURA Naoya)

Free amino acid composition and yeast identification in fermented honey consumed in Tsushima Island and Taiwan.
Authors: Jun-ichi Takahashi* , Mao Chikano , Ryo Inoue, Naoya Tamura
*Corresponding author: Jun-ichi Takahashi 
Affiliated institutions: 
Faculty of Life Science, Kyoto Sangyo University [Kitaku, Kamigamo, Motoyama, Kyoto City, Kyoto Pref., 603-8047, Japan]
 
Key Words: honey, fermentation, amino acid, beekeeping, honey bee
 
Abstract
We report the first analysis of the general composition and free amino acid composition of honey obtained in a fermented state obtained from Tsushima Island and Taiwan. No significant differences in general components were evident. Fermented honey showed a significantly higher content of five of the 25 free amino acids analyzed: glutamine, β-alanine, phenylalanine, and lysine. Metagenomic analysis showed that Zygosaccharomyces siamensis accounted for more than 99% of the fungi in fermented honey from Japanese honeybee Apis cerana japonica of Tsushima Island in Japan. In contrast, Z. mellis accounted for more than 99% of the fungi in in fermented honey from European honeybee A. mellifera in Taiwan. The free amino acids that are increased in fermented honey are important nutrients for humans.
 
要約
本稿は,対馬島および台湾で得られた,発酵状態のハチミツの一般成分と遊離アミノ酸組成を初めて分析したことを報告する。一般成分には有意な差は認められず,発酵状態のハチミツは分析した25種類の遊離アミノ酸のうち,グルタミン,β-アラニン,フェニルアラニン,リジンの5種類の含有量が有意に高いことが示された。メタゲノム解析の結果,対馬島のニホンミツバチ Apis cerana japonica の発酵ハチミツに含まれる真菌の99%以上を Z. siamensisが占めた。一方,台湾のセイヨウミツバチA. melliferaの発酵ハチミツでは,Z. mellisが99%以上を占めた。発酵ハチミツで増える遊離アミノ酸は,人間にとって大切な栄養素である。
 

パンデミックに際して個人が取るべき感染予防対策について

窪田 倭(KUBOTA Sunao)

 2019年12月末に中国湖北省武漢の海鮮市場勤務者で肺炎症状を呈した入院患者(男性)の肺胞洗浄液から検出された病原体(ウイルス)は重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome; SARS)類似の新規ウイルスであった1)。この新規ウイルス(SARS-CoV-2と命名された)による感染症(coronavirus-2019. 以下COVID-19と略)は中国本土から瞬く間に世界中に蔓延し,2020年3月11日にWorld Health Organization(以下WHOと略)(世界保健機構)はパンデミックとして警告を発した2)。初期対策として行政面では「都市封鎖」,「海外からの渡航者の入国制限」,「外出制限」,「飲食業の時間短縮」などの規制,個人的には「社会的距離を保つ」,「マスク着用や手洗い」などの奨励であった。ウイルス性感染予防にはワクチンが有効であることは周知の事実であるが,当時はこのSARS-CoV-2に対するワクチンは未だ製造されておらず,上記感染対策により個人,個人が身を護る術しかなく,不安な日々を送る状況下にあった。WHOのパンデミック発表3か月後の7月に,米国のファイザー社とモデルナ社がmRNA(messenger ribonucleic acid)ワクチンの臨床治験を開始し,有効率は95%,94.1%と,ともに高く,従来のインフルエンザワクチン以上の成績および同程度の副反応を報告した3−6)。
 この結果2020年12月14日COVID-19発症の予防薬として,アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration; FDA)の許可を得て米国では接種が始まり7),遅れてわが国では2021年2月17日にCOVID-19の予防接種として始められた8)。当初,先進国はじめわが国に於いてもCOVID-19撲滅の切り札として期待された。しかし,規定の2回接種を終えても感染は収束せず,欧米のみならずわが国においても3回目の接種が,さらに4回目の接種が施行されているのが現状である。ワクチン信仰 ―ワクチン接種により同じ病気に罹らないか,罹っても軽い経過をたどる― が揺らぎ始めてきた。
 WHO は,1959年にジェンナーが開発したワクチンによる集団予防接種により世界的な天然痘根絶の試みに乗り出し,1980年に根絶されたことを宣言した9)。ポリオはセービンにより開発された生ワクチン接種による普及が進み,南北アメリカはじめ多くの国々で感染を食い止めることに成功し,2001年には流行地域は4か国のみとなった9)。水痘,風疹や麻疹は小児期のワクチン接種により二度感染することはほとんどなくなった9)。このような成果によってワクチン接種により感染症は制圧され,いずれ消滅されるだろうと結論づけ,ワクチン信仰が生まれた。しかし,前述したポリオの根絶はいまだに宣言されず不可能とさえ言われている。その理由として,使用されているワクチンが不活化とはいえ生きたウイルスなので突然変異により毒性と向神経性を発現する可能性があること,さらに重要なことは感染者の大多数が無症状か,インフルエンザのような症状しか示さないことである。現在猛威を振るっているCOVID-19のオミクロン株(BA.5)は感染力が強いわりに,症状が発熱,鼻汁,倦怠感,咽頭痛10)などの軽度か,あるいは無症状者にも見られ,感染者の活動(行動)に支障をきたしていない。従って,行動制限がない限り感染制御は困難である。
 わが国で感染拡大しているCOVID-19の第7波は感染力の強いオミクロン株(BA.5)が主流となっている。感染拡大傾向はなお持続するものと思われるが,日本経済はこれまでのコロナ禍により疲弊しているので,緊急事態宣言の発令により再度行動制限をする状況にはない。さらに,アフリカ中央部から西部にかけて流行していたサル痘が今年に入り欧州にまで感染拡大した。WHOは今年7月23日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した11)。その2日後にはわが国でも感染者が7月25日に確認された12)。それ故に,今や新興・再興ウイルス感染症に対して個人個人が感染防御しなければならなくなってきた。
 そこで,本解説において新興・再興ウイルス感染症のパンデミック時に有効な感染対策として,ウイルスの伝搬と生体への侵入を防ぐことを目的とした(感染爆発期間の対策),「マスク着用」,「手洗い」および「うがい」について,そして生体の抵抗力(免疫機能)に影響を与える情動,ストレス,睡眠,運動や食事・サプリメントなど(将来の感染爆発に備えた日頃の対策)について解説する。
 

食品と医薬品の相互作用

須永 克佳(SUNAGA Katsuyoshi),菊地 秀与(KIKUCHI Hidetomo)

Interactions between foods and drugs 
Authors: Katsuyoshi Sunaga *, Hidetomo Kikuchi
*Correspondence author: Katsuyoshi Sunaga
Affiliated institution:
Josai University Department of Pharmacotherapy, Faculty of Pharmaceutical Sciences [1-1 Keyakidai, Sakado, Saitama 350-0283, Japan]
Key Words: food-drug interaction, pharmacokinetic interaction, pharmacodynamic interaction, drug metabolizing enzyme, drug transporter, proper use of drugs
Abstract
 Drugs can only function as pharmaceuticals if they are accompanied by the necessary information for their proper use, such as efficacy and effect, dosage, and administration, as well as their potential side effects. This information may include unintended changes in drug efficacy or the development of side effects resulting from the use of two or more concomitant drugs, i.e., food–drug interactions. Such interactions also occur between meals, foods, or their constituents and pharmaceuticals. Drugs taken may potentially impact the function of nutrients or non-nutrients in foods (or both) or the nutritional status of humans. These occurrences are one of the critical issues for the safe and effective use of pharmaceuticals. Dietary intake itself markedly influences drug absorption by altering the physiology of the digestive system (including gastrointestinal peristalsis, secretion of digestive fluids, bile secretion, and blood flow). Additionally, wide variety of foods are consumed, and the ingredients include a diverse range of chemicals, including phytochemicals and other non-nutritive substances, in addition to nutrients. Moreover, even within the same food, the concentration of particular components it is expected to vary, depending on breed variety, area of production, and harvest season. Additionally, individual preferences also vary, hence the intake situation varies highly among individuals, influencing the type, combination, and quantity of foods consumed. Thus, information on food–drug interactions is extremely scarce, making proper assessment and management difficult. In this sense, food–drug interactions are the weakest link affecting the appropriate use of pharmaceuticals. Food–drug interactions are similar to drug–drug interactions since both medications and food components are chemical compounds. These interactions can be divided into pharmacokinetic and pharmacodynamic interactions. Pharmacokinetic interactions change the blood and tissue concentration of the drug during the absorption, distribution, metabolism, and excretion processes. Pharmacodynamic interactions are caused by the additive/synergic or antagonistic effects between the pharmacological action of a drug and the functionality of the food. Alternatively, the resulting interactions are not only detrimental, but are also beneficial, such as, reducing side effects. Furthermore, the nutritional status of the patient may influence the effectiveness of the drug or, conversely, the drug may influence the nutritional status. Thus, understanding the connection between medicine and diet is also crucial for appropriate drug usage.
 
医薬品は効能・効果,用法・用量,起こりえる副作用等,その適正な使用のために必要な情報(適正使用情報)を伴って初めて医薬品としての機能を発揮するものである。この情報の中には,2種以上の医薬品を併用することによって生じる意図しない薬効の変化や副作用の発現など,すなわち薬物間相互作用に関するものも含まれる。同じことは摂取した食事・食品(成分)が服用した薬物に対して生じさせることがある。また,食品の栄養素や非栄養素の機能あるいはヒトの栄養状態に対して服用した薬物が影響することもある。これらは化学物質である薬物と同じく化学物質である食事・食品(成分)の間で生じる相互作用であり,安全で有効な「医薬品の適正使用」にとって重要な課題の一つである。
  

連載解説

トウジンビエ,Pearl Millet:自給自足用

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu),楠瀬 千春(KUNOSE Chiharu)

 トウジンビエは,世界の主要な農耕地の中で最も過酷な地域の主食であり,セネガルからソマリアまでの7,000km以上(この緯度で地球をほぼ6分の1周する距離)に及ぶ乾燥・半乾燥地帯で,この暑くて乾燥した砂地の土地で,世界のトウジンビエの約40%を生産している。世界最大の砂漠の端に位置し,灌漑設備がないため干ばつに見舞われることが多いこの地域で,どのように農民を支援すればよいのだろうか。灌漑や肥料,農薬など,購入した資材を利用することができない。その答えは,昔からある主食のトウジンビエにあるかもしれない。実際,サヘル,スーダン,ソマリア,その他のサハラ砂漠を囲む乾燥地帯で,飢餓の危機を救うのにこれ以上の穀物はない。毎日,何百万人もの人々がこの穀物に命を預けていて,彼らは地球上で最も助けを必要としている人々なのである。しかし,現時点では,トウジンビエは無視され,誤解されている。その理由のひとつは,最も貧しい国や地域,そして人間(研究者を含む)にとって最も過酷な生息地で栽培されているからである。このため,人々はトウジンビエに不当な汚名を着せ,より良い作物が見つかるまでの暫定的な支援にしか適さないという汚名を着せてきた。本章の目的は,そのような間違った考え方に反論することである。
 

連載

世界のメディカルハーブ No.2 エキナセア

渡辺 肇子(WATANABE Hatsuko)

 先人たちが病気やけがから身を守るために経験的に自然薬を用いていた知恵が,科学的に検証されて現代でも使われるようになった例は数多くありますが,エキナセアはその代表と言えるでしょう。ヨーロッパから北米に人々が入植する以前から,ネイティブ アメリカンはアメリカ原産のこのハーブをかぜ,感染症,腫瘍,外傷,毒蛇に咬まれた時など,他のどの薬用植物よりも多くの目的で使用していました。その後19世紀にヨーロッパで栽培が始まり,20世紀初頭にはアメリカでエクレクティック(折衷)派の医師を中心に処方されるようになって以降,ベストセラーとなりました。第二次世界大戦後になると,ドイツを中心にエキナセアの科学的研究が進められて有効性や安全性が確認されました。
 

エッセイ

フィジーへの旅

安住 明晃 (AZUMI Akiteru) 

22年前の12月末〜正月、新世紀が始まる年で大分前の事になるが雑誌社の方にフィジーへ同行を薦められ、私は遊びと撮影を兼ねてフィジーへの旅に出かけた。フィジーは熱帯雨林気候なので,年間通じて26度〜30度と安定している。日本の夏より快適とも言える。私が訪れたのは年末で雨季だったが,一度も雨に降られることは無かった。メインアイランドはビチレブ島で,車なら4時間で1周できる位である。日本人観光客は年間15,000人程度で,それほど多くはない。