New Food Industry 2022年 64巻 1月号

研究解説
8 -ヒドロキシダイゼイン:大豆麹乳酸菌発酵液が有する強力な抗酸化能の主体の可能性

中山 雅晴(NAKAYAMA Masaharu)

(株式会社喜源バイオジェニックス研究所,さかき第一研究所)
 
Possible major contribution of 8 -hydroxydaidzein to the strong antioxidant
activity of soy culture fermented with a koji fungus and lactic acid bacteria
 
*Corresponding author: Masaharu Nakayama
Affiliated institution:  KIGEN Biogenics Laboratories Co., Ltd., Sakaki Daiichi Laboratory (1326-1 Nakanojyo, Sakaki-machi, Hanishina-gun, Nagano 389-0602 JAPAN)
 
Key Words: soy, koji, antioxidant activity, isoflavone, 8 -hydroxydaidzein
 
Abstract
  We previously reported that soy culture fermented with a koji fungus and lactic acid bacteria (SKL), a functional food commercially available in Japan, has strong antioxidant effects against superoxide and lipid peroxide. Because this antioxidant effect of SKL increases with increasing duration of fermentation of soy culture, we surmised that isoflavones in the culture may be metabolized into strong antioxidant derivatives by a koji fungus used for the fermentation, Aspergillus oryzae MC-01.
 To identify the isoflavones responsible for the antioxidant effects of the soy culture, we prepared two isoflavone derivatives, 8-hydroxydaidzein (8-HD) and 8-hydroxygenistein (8-HG), as standards, and we applied them to high-performance liquid chromatography (HPLC) analysis. Subsequently, we fractionated a peak corresponding to that of the 8-HD standard from the soy culture and applied the fraction to mass spectrometric and spectrophotometric analysis. Furthermore, we investigated the antioxidant effects of 8-HD and 8-HG against superoxide and lipid peroxide by in vitro antioxidant assay, as well as their protective effects against the toxicity of tert-butyl hydroperoxide (t -BuOOH) to L929 cells. Finally, we used a reactive oxygen species (ROS) detection dye to determine whether 8-HD and 8-HG exerted their antioxidant effects inside cells. Trolox was used as a control in all tests on the cells.
 The retention time on HPLC, the molecular weight, and the ultraviolet spectrum of the fraction were identical to those of the 8-HD standard, whereas the peak corresponding to the 8-HG standard in HPLC indicated that only a trace level was present. Increasing antioxidant effect of the soy culture against superoxide during fermentation was significantly correlated with an increase in the quantity of 8-HD (r = 0.995, P<0.0001). The antioxidant activity of 8-HD and 8-HG against superoxide and lipid peroxide was far greater than that of each parental isoflavone, i.e. daidzein and genistein. In the cytotoxicity tests, the effects of 8-HD in protecting L929 cells against t - BuOOH were significantly greater than those of 8-HG or Trolox. The tests using ROS detection dye revealed that 8-HD easily passed into L929 cells, where it exerted its antioxidant effects in a dose - dependent manner against ROS induced by t -BuOOH. From these results, we concluded that it is very highly likely that 8-HD is a primary contributor to the antioxidant activity of SKL and that this compound in soy foods fermented with fungi has potential as a protective nutrient against oxidative stress in cells.
 
 大豆麹乳酸菌発酵液(Soy culture fermented with a Koji fungus and Lactic acid bacteria,SKL)は,味噌の持つ高い機能性にヒントを得て開発された発酵系健康食品である。作製法に関しては過去に報告したが 1),以下に簡単に述べる。始めに,10%丸大豆粉水溶液を高圧加熱滅菌して大豆培地を作製する。これに種麹(Aspergillus oryzae MC-01,日本醸造工業株式会社,東京)を接種して,30℃,130 rpmで17日間,振蕩培養装置(MR-200,株式会社プリス,東京)にて振蕩培養する。18日目に45℃に設定し,さらに1日振蕩培養して自家消化を行う。これを液体大豆麹(Liquid soy Koji,LK)と称する。LKに黒糖(日昇製糖,鹿児島),米糠エキス(築野食品,和歌山),炭酸カルシウム(白石カルシウム,大阪)をそれぞれ10%,2%,1%に加え,6分割し,各々高圧加熱滅菌する。これを麹培地と称する。各麹培地に6種類の乳酸菌を個別に接種し,これに1種類の酵母を共通に接種して,30℃にて1週間,静置培養する。培養終了後,6個の培養液を1個にまとめ,高圧加熱による最終滅菌を施して,SKL原液が完成する。原液にオリゴ糖などを添加し,顆粒状にして飲みやすくしたものを最終製品として上市する。
 SKLの機能性としては,抗高血圧作用 2),免疫賦活作用 2),赤身肉などの高温調理によって生じる発ガン物質であるヘテロサイクリックアミンに対する強い抗変異原性 1)などがあり,また,食物繊維とガンマーアミノ酪酸(GABA)を高濃度に含有することも特徴の一つである。SKLの機能性は乳酸菌によってもたらされるものとそれ以外のものとに分けることができるが,乳酸菌の関与が殆ど無いと考えられる機能の一つにSKLの高い抗酸化能があげられる。
 SKLの抗酸化能に関しては,本誌上において2011年並びに2012年に報告した 3, 4)。すなわち,市販の豆味噌,米味噌,ヨーグルトとSKLの抗酸化能をin vitro試験で比較したところ,水系並びに油系の両者において,SKLは他の三者の発酵食品全てに対して顕著に高い抗酸化能を示した。SKLを麹培地,LK,黒糖,米糠エキス,炭酸カルシウムに分けて比較したところ,水系並びに油系の両者において,麹培地並びにLKから得られたメタノール抽出物中に高い抗酸化能が認められた。また,このような抗酸化能はLKの培養日数に伴って増加することから,LKの培養過程において大豆中のイソフラボンが高い抗酸化能を有する化合物に転換される可能性が考えられたため,当時入手可能であった15種類のイソフラボン標品を用いて液体クロマトグラフィー(HPLC)により同定を試みたが,いずれも該当しなかった。
 近年,8-ヒドロキシダイゼイン(8-HD: 8-hydroxy-daidzein)並びに8-ヒドロキシゲニステイン(8-HG: 8-hydroxygenistein)の試薬の入手が可能となったため,今回,これらを標品として再度同定を試みた結果,SKLの高い抗酸化能の主体は8-HDによるものである可能性が強く示された。その後,水系並びに油系における両者の抗酸化能を非細胞系のin vitro試験にて他のイソフラボンと比較し,さらにウサギ赤血球膜並びに細胞株を用いた各種試験を行った結果,興味深い知見が得られたので,ここに報告する。
 

解説
一臨床医から見た新型コロナウイルスワクチンについて
〜その光と翳〜 

窪田 倭(KUBOTA Sunao)

三多摩医療生活協同組合 副理事長,国分寺診療所(総合診療科医)

杞國有人憂天地崩墜,
身亡所寄,廃寝食者.

 2019年12月末に中国湖北省武漢にて原因不明の肺炎患者が発生し,入院患者の気管支肺胞洗浄液よりSARSコロナウイルスの近縁の新規コロナウイルスであることが判明した1)。中国本土で罹患患者数が劇的なスピードで増加し,次いでヨーロッパはじめ米国,日本へと広がった。そこで国際ウイルス命名委員会(ICTV)はこの新型コロナウイルスをSARS-CoV-2と命名し,WHOはこのウイルスによる感染症をCOVID-19と命名した。次いで2020年3月11日にパンデミックとして警告を発した2)。その時点での世界の累積感染者数は113,702人,死亡者数は4,292人,我が国ではそれぞれ675人,15人であった3)。初期感染対策としては,中国や一部の先進国での「都市封鎖」,わが国では不要不急の外出制限(要望)と個人の「マスク着用,手洗い,うがい」の奨励4)であり,COVID-19の自然収束を期待したものであった。しかし,中国は感染拡大を制御したものの,ヨーロッパや米国そして 我が国では拡大するのみで,SARS-CoV-2ワクチンが待望された。
 人類はこれまでウイルス疾患に対してワクチンという武器を用いて天然痘は根絶された。その結果,天然痘ウイルスは現在この世に存在しない。また,水痘,風疹や麻疹などは小児期にワクチン接種することにより2度感染することはほとんどなくなった。季節型インフルエンザは流行前に接種することにより感染予防や重症化予防に大きく寄与している。これらのワクチンはウイルスを弱毒化または不活化,あるいは抗原となるウイルス外殻タンパク質を分離,精製したものである。これらのワクチン製法はウイルスを培養,増殖しなければならず,安全性(培養中に起こるウイルスの変異,従事者の感染など)と時間がかかること,大量生産が困難などの欠点があった。それ故に,感染力が非常に強く,瞬く間に世界中に広がったこのSARS-CoV-2に対しては限界がある。それに対して,遺伝子操作による製法,すなわち,SARS-CoV-2の抗原として作用するSタンパク質を作る遺伝子を用いる製法(mRNA法)は短期間で多量生産でき,かつ生産ラインからのウイルス感染の恐れのない理想的なものである。2020年4月に英国(アストラゼネカ社)および7月に米国(ファイザー社およびモデルナ社)が臨床治験を始めた。その結果,有効率は約90%と高く,副反応の発症率は従来のものと同程度であると報告されて,今やCOVID-19撲滅の切り札として世界中で使用されている5-7)。
 ウイルスや細菌などの病原体が生体に侵入した際の免疫機構は,自然免疫による病原体の大まかな識別から始まり,この情報を基に特異的に病原体を排除する特別な細胞(抗体を産生するB細胞および感染細胞を死滅させる障害性(キラー)T細胞)などが誘導されて,その病原体が排除される獲得免疫によってなされる8-10)。免疫機構は自然免疫から獲得免疫作用へと一連の調和のとれた高次複雑なネットワークシステムの流れを形成している。従来の弱毒生ワクチンや不活化ワクチンはこの生体防御機構を模したものである。これに対してmRNAワクチンは筋肉内接種により直接mRNAが筋肉細胞に取り込まれ抗原となるタンパク質を作り放出して抗体を産生する。すなわち,感染(あるいは従来の弱毒生ワクチン)にみられる自然免疫の初期の関与なしに獲得免疫が開始されていることになる。しかし,それは人体本来の調和のとれた高次複雑なネットワークシステムの一連の流れの免疫機構から乖離したものとなっている。現段階ではmRNAワクチン接種によるメリットはデメリットよりもはるかに大である。しかし,長期的に見て懸念される点もある。そこで本解説においてはmRNAワクチンの原理,有効性,副反応,作用機序などその「光」の部分と将来的に懸念されるであろう「翳」の部分について最新の研究を基に述べることとする。
 

シリーズ: 世界の健康食品のガイドライン・ガイダンスの紹介 第1回
―欧州食品安全機関 (EFSA). 免疫機能・病原体防御に関する機能性評価―

鈴木 直子 (SUZUKI Naoko),波多野 絵梨 (HATANO Eri),中村 駿一 (NAKAMURA Shunichi),馬場 亜沙美 (BABA Asami),野田 和彦 (NODA Kazuhiko),金子 拓矢 (KANEKO Takuya),柿沼 俊光 (KAKINUMA Toshihiro),山本 和雄 (YAMAMOTO Kazuo)

 
Introduction to Guidelines and Guidance for Health Food Products in the World: European Food Safety Authority (EFSA) series
—Functional Assessment of immune function and pathogen defense—
 
Keywords: European food safety authority, clinical trials, health food, immune system, defense against pathogens, outcome
 
Authors: Naoko Suzuki1)*,  Kazuhiko Noda1), Eri Hatano1), Takuya Kaneko1), Shunichi Nakamura1), Toshihiro Kakinuma1), Asami Baba1), Kazuo Yamamoto1)
*Correspondence author: Naoko Suzuki
Affiliated institution:
1) ORTHOMEDICO Inc. [2F Sumitomo Fudosan Korakuen Bldg., 1-4-1 Koishikawa, Bunkyo-ku, Tokyo, 112-0002, Japan.]
 
 健康食品は,世界の様々な国に存在し,健康食品で謳ったヘルクレームは,その国のガイドライン等に準拠しながら販売されている。そこで,本シリーズでは世界の健康食品におけるガイドラインまたはガイダンスの紹介を隔月に行う。シリーズの始めは,欧州食品安全機関(European Food Safety Authority: EFSA)の発行するガイダンス(以下,EFSAガイダンス)について紹介することとし,今回はEFSAガイダンスの「免疫機能・病原体防御に関する機能性評価」の中のアウトカムの設定や科学的根拠の説明などを説明する。
 

連載解説
複雑な病気セリアック病5

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu)

本論文「複雑な病気セリアック病5」は“Celiac Disease and Gluten” (by Herbert Wieser, Peter Koehler and Katharina Konitzer) 2014 の第1章 Celiac Disease-A Complex Disorder の一部を翻訳紹介するものである。
 進化の過程で病原体と戦うために徐々に構築される人間の免疫システムには,先天性(自然)免疫のメカニズムと適応免疫のメカニズムの両方が関係している。高速自然免疫系は,原始的な多細胞生物の非常に早い時期に発達し,哺乳動物で副次的機能を担うために複雑さを徐々に獲得した“特異性が低く記憶がないにもかかわらず即時の障害に対する役割”と,MHC(Major histocompatibility complex,主要組織適合遺伝子複合体分子)分子299)を介した“適応免疫メカニズムに対する抗原提示の2番目の役割”がある。遅い適応システムは,脊椎動物でずっと後に出現し,BおよびTリンパ球に依存して,長期記憶を備えた遅延しているが非常に特異的な応答を可能にする。腸関連リンパ組織(GALT)は,免疫系の最大でおそらく最も複雑な部分である300)。400 m2の表面上で外来抗原の複雑な混合物と連続的に接触している。GALTは,病原性微生物と食物化合物などの無害な抗原を区別する必要がある。したがって,特定のシグナルが炎症反応を引き起こさない限り,腸管免疫のデフォルト設定(初期設定)は耐性の生成である。腸粘膜に損傷を引き起こすCDの免疫学的メカニズムは複雑であり,多数の免疫担当細胞と免疫学的メディエーター(仲介者)が関与する反応を構成する。CDの適応免疫応答におけるグルテンペプチドの役割は十分に確立されている。自然免疫応答に関して,いくつかの未解決の問題が存在する。特に,自然免疫と適応免疫のコラボレーションはまだ不明のままである。しかし,適応応答と生得(自然)応答の両方がグルテンを含まない食事で軽減するという事実は,相互依存の可能性を探る方法を示唆している。
 

コーヒー博士のワールドニュース
コーヒーの木を育てる会に参加しよう

岡 希太郎(OKA Kitaro)

「コーヒーの木を育てる会」は日本コーヒー文化学会会員の堀直樹さんが2019年にFacebookに立ち上げた趣味の会です。Facebookにログインすれば,誰でも何時でも参加できます1)。
 立ち上げた本人がびっくりするスピードでメンバーが増えて,今では2千人に近づいています。ほとんどのメンバーが日本在住の個人ですが,中に数名のコーヒー農園経営者が加わっています。ハワイ,沖縄,フィリッピンなどの,それぞれに特徴がある農園なので,個人のメンバーにとって,専門的知識と技術を見たり聞いたりできる便利なメンバーとも言えそうです。
●個人メンバーの栽培場所は,99.99%が自宅の鉢植えです。
 敷地に余裕のあるメンバーは,冬の寒い時期にはビニールで囲った小さな温室を作ったりして育てていますが,我が家の場合は冬は室内で,夏場は表に出しますが,日の当たらないビルの谷間が幸いして,猛暑の中でも枯れることはありません。冬場の室内暖房は家族が起きている間だけ。夜中はかなりの低温になりますが,多分3℃以下にはならないだろうと思います。コーヒーの木の鉢植え管理は,枯らさないということでなら,難しいものではありません。写真はMasaya OkadaさんがFacebookに投稿した若木の鉢植えで,手前から時計回りに2,3,4年物と思います。
 

New year's essays 新春随想

コロナ禍2年目を終えて

坂上 宏(SAKAGAMI Hiroshi)

明海大学歯科医学総合研究所(M-RIO)
 
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が全世界に飛び火して,早2年目が過ぎようとしている。日本は島国であり,他国から流入する人が少ないことと,マスク着用が徹底しているためか,mRNAワクチンの接種の普及に伴い感染者数が激減した。しかし,他国では,感染が未だ収束しておらず,社会的な孤立や経済的な不確実性,恐怖により人々は疲弊しきっている。アメリカの死者数は,累計71万人を超え,首都ワシントンのナショナル・モールでは,66万以上の小さな白い旗が出現した1)。コロナ禍で,世界の150万の子供が,養育者を失っている2)。
 

コロナ禍の時代を無理なく過ごす ーそして新たな仮説

牧 純(MAKI Jun)

薬剤師・薬学博士,感染症学専攻
 
A new hypothesis postulated by the present author leading a life under the thread of COVID19
 
Corresponding author: Jun Maki (Pharmacist, PhD specializing global health sciences and infectious diseases)
Abstract
 Needless to say, it is of importance for us to avoid the possible infection with COVID19 still nowadays. The present author has been confined to a living room in a condominium. During the hard period, a new hypothesis has been postulated. What is responsible for the difference between the infectious rates in Japan and those in other countries? I t seems difficult to explain it just with the vaccination and masks which have both been prevalent and popular now. To the present author, much attention has to be paid to the Japanese custom of taking off shoes at entrances upon coming back home. Shoes are sure to carry numerous infectious agents on wet roads and floors, though those of COVID19 are of respiratory infection. Comparative studies on various kinds of the virus distribution in Japan and countries of rampant infection   are necessary before validating the hypothesis.
 
 コロナ禍は,100年前に生まれた方にとっても,初めて意識する最重要な伝染病のひとつであろう。確かに1世紀前,いわゆるスペイン風邪が猛威を振るったが,実際に当時を思い出せる方は,さらに年を召された極めて稀有な存在だ。従って,私どもにとって,この恐ろしい時代をどのように過ごしたものかについて直接助言をくださる方はほとんどいなくて,状況を斟酌しながら,とるべき行動様式を探ることになる。
 

コロナ禍で迎えた転換期

猪俣 恵 (INOMATA Megumi)

明海大学 歯学部
 
「Megumi, 肺炎球菌を使ったマウス感染実験にストップがかかった。ここで一旦,データをまとめよう。」留学(米国タフツ大学医学部John Leong Lab 2016-2017)から帰国後の週1回のウェブミーティングでJohnにsuggestされた(写真1)。
  2020年3月,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による感染者数・死者数が増えている欧米では,感染拡大を防止するためにロックダウン(都市封鎖)を実施していた。感染防止の一環で,結核菌を使ったマウス感染実験も禁止されるようになると1週間前のウェブミーティングで聞いていたが,予想以上に早く,肺炎球菌の感染実験にもストップがかかった。米国では,じきにラボへの入室にも制限がかかるだろうと言っていた。コロナの到来とともにウェブミーティングの媒体は,いつしかSkypeからZoomに代わっていた。
 

高齢者とスマートフォン

戴 秋娟(DAI Qiujuan)

北京外国語大學歴史学院
 
 昨年,中国でコロナウィルスが流行っていた頃,安徽省亳州出身のおじいさんはスマートフォンを持っていなかったため,健康コードを示すことができず,何度も交通機関に乗車することを断られた。仕方なく,956キロ離れた浙江台州に徒歩でアルバイトに行った。途中,ホテルに宿泊することもできず,公園で野宿するしかなかった。このニュースは,スマートフォンはすでに今の社会に必要不可欠なものになったことを教えてくれた。しかし,未だ多くの人,特に高齢者がスマートフォンを使いこなせないということも事実である。中国社会の高齢化に伴い,60歳以上の人口はすでに全人口の18.7%,2.64億人に達したが,高齢者のインターネット普及率はわずか38.6%にとどまり,1.62億人の高齢者がまだスマートフォンを使えないということである。ドキュメンタリー映画の『老有携帯』 の中で,「スマートフォンに慣れていない一部の高齢者は世界から取り残されている」と指摘されている。本稿では中国における高齢者のスマートフォンの利用状況とそれに関わる問題点を解説する。
 

Changes in Lifestyle during the COVID-19 Pandemic

Ryusuke Oishi

Faculty of Economics, Meikai University,
 
Abstract
 Approximately two years have passed since the new coronavirus disease (COVID-19) was first detected in China. The COVID-19 pandemic has tremendously affected the economy and people’s lifestyle in many countries. In many cities in Japan, due to the increase in COVID-19 infection, a state of emergency has been repeatedly issued, thereby restricting people from going out. Educational institutions were forced to introduce distance learning; the sudden change in the implementation method of lectures was challenging for both the faculty staff and students. In Japan, the number of new COVID-19 infections has been decreasing, as vaccination has progressed. At the beginning of the pandemic, many people were confused because of the new lifestyle, but after two years, it seems that people have begun to adapt to the new lifestyle. In this article, we look back on the two years since the spread of COVID-19 began and consider the changes in our life during that time based on the author's experience.
 
和訳 COVID-19パンデミックによる生活様式の変化
要旨 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が中国で初めて検出されてから約2年が経過した。COVID-19のパンデミックは,多くの国で経済や人々の生活に非常に大きな影響を与えている。日本の多くの都市では,COVID-19の感染増加により緊急事態宣言が繰り返し発令され,人々の外出が制限された。教育機関では,リモート授業の導入を余儀なくされ,講義の方法が急変したことは,教職員にとっても学生にとっても非常に困難なものとなった。日本ではワクチン接種が進み,COVID-19の新規感染者数は減少している。パンデミック発生当初は新しい生活様式に戸惑う人も多かったとみられるが,2年が経過し,人々は新しい生活様式に適応し始めている。本稿では,COVID-19の感染拡大が始まってからの2年間を振り返り,その間の生活の変化を筆者の経験をもとに考察する。
 

The harshness of life, teaching and experimentation that has changed over the past two years due to corona disasters.

Alejandro Mena Acra.

Autonomus University of the State of Mexico (UAEM) 
 
  COVID-19 pandemic has not stopped at national borders. It has affected people regardless of nationality, level of education, income, or gender and now over almost two years. Enhanced and blended learning-strategies, as well as transdisciplinary knowledge production, have been identified. Reports had shown that worldwide there are currently more than 1.2 billion children in more than 186 countries that had been affected by school closures due to the COVID-19 pandemic.In Europe for example children up to 11 years old have already returned to nurseries and elementary schools after the lockdown on March 12 2020, in Asia and America in most of the countries students are still taking lessons online and teachers are still at home giving lectures.
 
コロナ禍の2年間で変わってしまった生活,教育,実験の厳しい現実
 概要
 COVID-19によるパンデミックは,国籍,教育水準,収入,性別に関係なく,約2年間にわたり人々に影響を及ぼしている。特に,休校の影響を受けた子供は,世界で186カ国以上,12億人以上にのぼるとの報告もある。一部の国や地域では再開の動きもみられるが,ほとんどの国では依然としてオンライン授業が続けられている。我々は,このように変化したオンライン学習システムがパンデミック後も継続されるのかどうか,また,この変化が教育,専門家,マーケティング市場において世界中にどのような影響を与えるか注目している。数年後には,これら新しいテクノロジーへの投資や導入は,これまで以上に大幅に増えると予想される。
 多くのオンライン学習プラットフォームは,パンデミックの影響を受けて無料アクセスを提供した。これにより,世界中の学生に加え,オンライン学習に関心をもつ人々や会員の数は増加し,「オンライン・ムーブメント」と呼ばれるほどになった。専門家の中には,準備不足で拙速にオンライン学習に移行した場合の持続的な発展に疑問をもつ人がいる一方で,ハイブリッド型の新しい教育モデルが実現すると考える人もいる。個人的には,今後オンライン学習は学校での通常の教育の一部になると考えている。例えば,チャットグループやビデオ会議は,より効率的かつ効果的に連絡を取ることが可能であり,学生側もコミュニケーションが容易になったと感じているからである。しかし,オンライン学習の今後の発展には課題もあり,インターネットへのアクセス環境や学生へのデジタル機器の普及について,国などの経済状況による不平等の問題も存在する。
 オンライン学習の効果については,適切なテクノロジーを使える人にとっては,教室での授業より効果的であるといえる。平均して,オンライン学習の方が対面授業よりも多くの内容を覚えていることがわかっている。オンラインの方が自分のペースで学習できるため,より短い時間で学習が進められることが主な理由である。ただし,オンライン学習の効果は年齢層によって異なるため,テクノロジーを効果的に使い楽しく学習することで,その効果を最大限に引き出す努力も必要である。
 今回のパンデミックを通して,国境や企業,社会のあらゆる部分を超えて知識を広めることの重要性が明らかになった。オンライン学習テクノロジーがその役割を果たせるならば,その可能性を最大限に追求することが,教師,学生,保護者のすべてに求められている。
 

Shaping life during pandemic: the challenge of getting used to new normal

David Bautista-Martinez

Division of Orthodontics, Autonomous University State of Mexico (UAEMex) 
 
  Life is about challenges, changes, adaptation, and a continuous cycle of learning. Universally known scientific method applied to the pandemic is a good way to understand how it is shaping our new lifestyle. Observations about the virus and its behavior have been made since the beginning, a lot of hypotheses have been proposed by scientists across the world, then methods, drugs, prevention measures and vaccines have been tested, positive and negative outcomes have been found and analyzed, and the never-ending trial and error method is started again to find better solutions. Every person is also testing new lifestyles that best fit to the features of their families, jobs, and activities that used to do before, but our goal in common is to stay safe and left behind this obnoxious episode of the world. 
 
パンデミック時の生活様式:ニューノーマルに慣れるための課題
概要
 普遍的な科学的手法をパンデミックに適用することは,パンデミックが人々の新しいライフスタイルをどのように形成しているかを理解する良い方法である。世界中の科学者によってウイルスに対する薬,感染予防策,ワクチンなど,より良い解決策を見つけるために終わりのない試行錯誤が繰り返されている。人々はそれぞれの新しいライフスタイルを試しているが,最終的な共通目標はこの世界の不愉快な状況から抜け出すことである。これまでに世界中で何百万人もの犠牲者を出しているが,その他にもいくつかの問題に直面しており,最大の問題として経済的,精神的な影響がある。ロックダウンや失業などによる様々なストレスが人々のうつ病や不安症などを悪化させ,これまで以上にメンタルヘルスが注目される事態に陥っている。現時点での各国の感染状況は,政策,感染対策,ワクチンの調達状況,各地の経済的・文化的特性などの様々な要因が影響し,すべての国で同じ経過にはなっていない。例えば,アメリカやロシアのように昔からワクチンが開発され,国民全員が受けられる国ではワクチンを希望しない人も多いが,アフリカのように貧困から予防接種率が低い国ではワクチン接種を切望する人がいる。また,米国と国境を接するメキシコでは「ワクチンツーリズム」と呼ばれる現象も起きており,外国人に寛容な政策をとっている米国の州で人気となっている。このような異なる感染状況のもと,パンデミックはなかなか終わりが見えない。
 学校教育や職場などあらゆる分野では,新しい動きが生まれている。多くの学校でリモート授業が導入されたが,教師の中にはこの新しい様式について,自宅に場所を用意することや,時間外でも親や生徒からの相談に対応しなければならないことについて不満を持つ人もいる。大学における影響はさらに大きく,医学,歯学,看護学,化学といった実験や患者との対話が必要な分野では,非対面授業では学習全体の量と質が低下する。例えば,歯科治療トレーニングを行うことは非常に難しく,専門的な実践に影響を与える可能性がある。また,大学の研究室では実験に大きな影響が出ており,ロックダウンによって進行中のすべての実験は一時中断や延期を余儀なくされた。さらに,COVID-19に関連する研究に注力したため,取り残されてしまったテーマも存在する。
 しかし,パンデミックはこれら悪い影響だけではなく,見方によってはいくつかのよい影響もあったとみられる。最も価値があるものとしては,人々が社会的なつながりの重要性を認識したことがあげられる。これを機に人々が周囲の人たちの大切さを再認識し,より良い人間関係を築く努力をするべきであり,国籍や宗教などにかかわらず,連帯感を持ち,共通の目標に向かって一丸となって取り組むことが必要である。新自由主義によって悪化した社会的・経済的格差がこのパンデミックでさらに明らかになっているなかで,人々がすべての人にとってより良い社会を作ることを望むようになれば,今後の政治や社会に大きな影響を与え,大きな変化をもたらす可能性がある。
 さらに,パンデミックは個人レベルでの恩恵ももたらしている。多くの人が年代を問わず新しいテクノロジーを受け入れたことである。若者では,授業や仕事,教授やクラスメートとの交流をリモートで行うことは新しい経験だったはずである。年配者では,ソーシャルメディアや電子機器,アプリなどが若者だけのものではなく,調べ物などに有用で,周囲の人との手軽な連絡手段であることを知る良い機会となった。また,多くの人々は,自分の人生を振り返り,習慣や健康,仕事と生活のバランスについて考え直す時間を持てたはずである。家から出られない生活は,人々のライフスタイルを大きく様変わりさせた。現在進行中のパンデミックが我々の生活を再構築し,方向転換させたのである。人々はパンデミックを克服する以上に,新しい生活様式を受け入れる必要がある。
  

The harshness of life, teaching and experimentation after SARS-COV-2 pandemic disaster

 Darinka Pamela Duran-Gutierrez 1, Rene Garcia-Contreras 2

1 PhD Student in Biotechnological Sciences, National School of Medicine and Homeopathy, National Polytechnic Institute (IPN),
2 National School of Higher Studies (ENES) Leon Unit, National Autonomous University of Mexico (UNAM)
 
  The reopening of activities after the COVID-19 quarantine will come with new social measures that will be the “new normal”. It is a challenge for every university and everyone. The life before pandemic was focused by planning and preparing seminars, classes, laboratory experiments, request quotes, organize everything we think we have in our hands, sometimes, is often complicated and takes a lot of time or at least that’s what we thought before the pandemic arrive. Even though history has taught us about some of the worst epidemics and pandemics that doomed civilizations like the plague of Athens or the plague of Cyprian, or the most known the black death, the Spanish flu or the yellow fever, people almost never think that something like that could ever happen again.
 
SARS-COV-2パンデミック後の生活,教育,実験の難しい問題
概要
 COVID-19パンデミック後のニューノーマルとなる活動再開は,すべての大学,すべての人にとっての挑戦である。これまでの歴史において,ペストや黒死病,スペイン風邪,黄熱病などのパンデミックを経験してきたにも関わらず,医学や科学が非常に進歩した時代に人々はそのようなことが再び起こる可能性があるとはほとんど考えていなかった。そこへ突然のパンデミックが起こり,オンライン学習やリモート教育などのツールやプラットフォームが,前例のない規模と範囲で導入されることになった。パンデミックが始まって以来,研究者や教育者たちは,今回の経験をメディアでの報道やブログ,ソーシャルメディアなどで発信する他に,学術出版物でまとめようとしてきた。これら教育と学習についてのレビューは,このパンデミック後の大きな課題となっている。
 研究室での実験は,パンデミックが終わるのを待っていてくれることはないが,いまだに多くの大学が再開できていない。メキシコ国立自治大学(UNAM)のENESレオン校では,2020年7月から研究室が開放されている。当施設での研究希望者が増えており,メキシコ州立自治大学(UAEMex)から小児歯科と歯内療法学の大学院の学生を受け入れている。例えば,メキシコ国立自治大学に通うダリンカは,メキシコ国立工科大学(IPN)の医学部・ホメオパシー校のバイオテクノロジー科学の博士課程に在籍している。彼女は,すでに1カ月間ENESレオン校のナノ粒子とバイオマテリアルの研究室に滞在し,真核細胞の培養の基礎を学びスキルを高めることができた。どちらが優秀かを競い合ってきた歴史のある両大学は,パンデミックの危機に見舞われたメキシコ再建のために力を合わせる時が来たのである。
 パンデミックのために中止せざるを得なかった研究やプロジェクトを再開させ,学生を所属するキャンパスに関係なくサポートするためには,教育機関が協力し合うことも求められ,他の教育機関もこの取り組みに参加している。今回のパンデミックの教訓は,感染拡大抑制のための様々な制限も重要であるが,国の発展のためには,いかなる理由があっても科学を止めてはならないということである。
 

The harshness of life, teaching and experimentation that has changed over the past two years due to coronal disasters

PhD. Paola Ariselda Sanchez-Reyna and Norma Margarita Montiel-Bastida

Faculty of Dentistry of the University Autonomous of the State of Mexico.
 
 The recent outbreak of a novel coronavirus, named Covid-19 by the World Health Organization (WHO) has pushed the global economy and humanity into a disaster 1-4). As governments struggle to contain the vicious spread of Covid-19, and with over a third of the world’s population currently under some form of lockdown the effects the virus has had on people’s daily lives is clearly like nothing most people have experienced before 1).The outbreak of the coronavirus pandemic has not only negatively affected the health of people around the world, but also harmed the socio-economic activities of countries all over the world. Therefore, the markets of the world's largest economic countries and others operate in fear of disruption in international financial markets. The major areas such as global supply chains, business, agriculture, automotive, electronics, travel, transportation, and tourism industries, and have been severely disrupted due to the coronavirus epidemic. The economy of various other sectors, such as the aviation industry, entertainment industry, sports industry, and so on has also been severely hampered internationally due to the lockdown 2). Due to emergency pandemic measures more than 50% of student population are unable to attend their schools and colleges. However, we need to be more concerned about the likely impact of indirect and parallel harm on psychosocial and mental health from school closings, quarantine, and lack of peer relationships by COVID19 3). For academics, the disruption caused by the coronavirus pandemic ranged from delayed experiments in labs to transformed or canceled global science conferences. People turned classrooms into virtual platforms and negotiated with family members for space in their homes to work. This altered reality blurs the lines between work and non-work, creating ambiguity in daily occupations 4).
 
コロナ禍の2年間で変わってしまった生活,教育,実験の困難さ
概要
 WHOによって「COVID-19」と名付けられた新型コロナウイルスにより,世界経済と人類は大惨事に追い込まれ,多くの人々はこれまで経験したことのない日常生活を送ることになった。パンデミックの発生は,世界中の人々の健康だけでなく,社会経済活動にも悪影響を与え世界経済に大きな混乱を招いている。
 
パンデミック時の日常生活
 COVID-19の感染拡大を食い止めるため,世界中の政府が大規模かつ前例のない対策をとった。地域社会や家族は分断され,離れて暮らす親族がいる家庭や介護を必要とする家族がいる人にとって非常に困難な状況になった。また,幼い子供たちは日常生活の変化によって受けるダメージが深刻で,両親が仕事と子育てを両立させることが困難な状況で大きな混乱を招いている。愛するものを見舞うことも不可能にするこの未知の感染症は日常生活のすべての点に影響を及ぼし,歴史的な規模の悲劇を生んでいる。さらに,封じ込めとして実施された社会的距離の取り方と検疫措置は,個人,家族,社会,国家の社会構造を大きく変え,人々の感情的な混乱をさらに大きく悪化させている。
 
教育,学生,教授
 COVID-19が広がり続ける中,多くの国では感染対策として学校の閉鎖を行い,世界の80%の子供たちの教育に影響を与えた。ほとんどの大学や学校がオンラインのリモート授業に切り替えたため,恵まれない環境にある子供たちの学力格差が拡大している。また,これらのテクノロジーは便利でも,多くの教員や学生にとって使いこなせるにはある程度の時間が必要なケースもあり,それらの技術レベルがモチベーションの維持に関わることもある。さらに,いま最も懸念されているのは雇用への影響であり,企業からの求人がなくなることが恐れられている。この危機的パンデミックの状況において,リモート授業が教育システムを維持するための解決策になっているが,発展途上国ではその実現に必要なインフラ不足という困難な問題も存在する。
 
実験・科学・サイエンティスト
 COVID-19の感染拡大による長期的な影響は,ライフサイエンスの世界にも影響を与えている。科学者の中には様々な制限により実験ができず行き詰まりを感じ,特に有期契約のような若い科学者は将来のキャリアに不安を抱えていると考えられる。パンデミックを通して,様々な分野の専門家コミュニティは会議室からバーチャルプラットフォームへと移行した。自宅でコンピュータを使って仕事をすると同時に,共通の関心をもつ世界の研究者とつながることができ,共同開発やコラボレーションが促進されている。研究所での作業は実験の中断や停止を余儀なくされ,細胞培養物の廃棄や動物モデルの根絶を含む損失がどの程度のものであるかは,今後明らかになると思われる。これらの科学者へのマイナスの影響は大きいものの,自宅で効率的に仕事ができ,遠方へ出張せずに国内外の科学者や医師と生産的なコラボレーションができることは,最終的には科学と社会に利益をもたらす可能性があると考える。
 

Life and education: Some lessons and reflections after two years of pandemic in Mexico.

 Ángel David Paulino-González

Dental Science, National Autonomous University of Mexico. 
 
 Since the emergence of SARS-CoV-2 in 2019, there have been great changes in forms to carry out many activities around the world. Also, many significant changes have been made in daily, academic, and research life. The global view shows us that each country has faced the pandemic differently and that some strategies that have worked in a certain place do not always work in the same way in another place, the social, economic and cultural context play an important role. This article will mention some experiences and lessons learned through last two years of pandemic in Mexico. First, in Mexico, while many teachers and students are interested and try to find and develop strategies for teaching-learning with technological tools, many others neither try nor show interest. There have also been challenges such as the lack of solidarity and empathy on the part of teachers and students in both ways. There have been situations where teachers have difficulty using the different educational tools and platforms and, it has been frustrating for them. In other cases, students have shown little willingness and interest in learning, which makes teaching difficult.
 
生活と教育 メキシコにおけるパンデミック2年後の教訓と反省点
概要
 2019年のCOVID-19発生により,世界中の日常生活,教育,研究など様々な場面での活動様式は大きく変化している。各国がそれぞれ異なる形でパンデミックに向き合ってきたが,ある場所で有効だった戦略が別の場所でも同じように機能するとは限らず,社会的,経済的,文化的な背景が重要な役割を果たしていることがわかる。この記事では,メキシコにおける過去2年間のパンデミックの経験と教訓を紹介する。
 メキシコでは,多くの教師や学生が,技術的な教育ツールやプラットフォームを使った教育・学習に積極的な一方で,それらに関心を示さない教師や学生もいる。教師側に,それらツールの使用における技術的な問題や学生の学習意欲の低さによる指導困難な点があることや,学生側に,経済的、家族,健康面などの不安から学業に集中できないという問題も存在する。教育関係者は,学生が安心して学べるサポート体制の環境を整える責任がある。しかし,対面授業とは条件の違うデジタルシステムへの移行に際し,多くの教師が予期せぬ困難に直面するため,学生からの理解と双方の協力的な関係性が求められる。また,教師が過剰な課題を与えてしまうケースも多く,課題を提出しない学生が増えてしまい,提出する学生も義務感から提出するだけでは学習効果は乏しいものになってしまう。授業での情報量の多さなどの問題はパンデミック以前から存在していたが,デジタル時代がそれをさらに深刻にさせている。多くの学校が対面授業に戻りつつある今,教師や教育機関は授業で教えることよりも,その内容をどのように教え,そしてなぜ学ぶのかを教える戦略をとる必要がある。
 一方,実験を必要とする研究はより難しい問題があり,多くの研究室が閉鎖されたままである。多くの研究室は徐々に復帰しているものの,プロジェクトの開発や新しい学生や研究者の受け入れについて予算面で大きな問題を抱えている。さらに,世界的なパンデミックのため,それらに焦点を当てた研究が注目されているが,他の多くの問題や病気も同様に重要であり,リソースの確保が必要なことを忘れてはいけない。多くの若者がこれら科学的研究の意義を再評価し,日常生活での問題解決に不可欠と考えるためのよい機会でもある。このような状況で,多くの大学院生が時間的なプレッシャーや様々な制約で大きなストレスを感じ,それが身体的・精神的な健康問題を引き起こす可能性がある。
 この2年間で,日常生活に戻ることが困難になった人と何も変わっていない人が存在する。すべての人が命を大切にし,科学,知識,教育を通じて,より良い世界を求め続けなければならないと考える。