New Food Industry 2021年 63巻 12月号

原 著

グルコマンナン粒子の表面付着物除去
―こんにゃく精粉および生芋の添加剤存在下での超音波処理―

釘宮 正往(KUGIMIYA Masayuki),大野 婦美子(OHNO Fumiko),石永 正隆(ISHINAGA Masataka)
 
Removal of surface deposits on glucomannan granules by ultrasonic treatment of polished konjac flours and konjac corms in the presence of additives
 
Authors: Masayuki Kugimiya 1*, Fumiko Ohno 2 and Masataka Ishinaga 3
*Corresponding author: Masayuki Kugimiya 1
 
Affiliated institutions:
1, 2 Former Kurashiki Sakuyo University, The Faculty of Food Culture
[3515, Tamashima-nagao, Kurashiki-shi, Okayama 710-0292, Japan]
3 Sanyo Women's College
[1-1, Sagata-honmachi, Hatukaichi-shi, Hiroshima 738-8504, Japan]
 
Key Words: polished konjac flours, konjac corms, glucomannan granules, surface deposits, methylene blue staining, urea, guanidine hydrochloride
 
Abstract
 In order to remove surface deposits of GM granules, polished konjac flours (flours) and konjac corms (raw corms) were used and sonicated in the presence of additives. The presence or absence of deposits was determined by microscopic observation of MB-stained granules. Sonication was performed using an ultrasonic generator (oscillation frequency 20 kH, rated output 200 W), mainly at an output of 30 to 145 W for 10 to 20 minutes. Almost all of the deposits were removed by adding a 6M urea solution or a 5M guanidine hydrochloride solution prepared with a 35% ethanol aqueous solution to the flours or the crushed product prepared from raw corms, and sonicating under appropriate conditions. As the granules without deposits, mainly granules having a large number of fine uneven patterns on the surface and granules having a smooth surface were observed. On the surface of these granules, GM exudates, which are thought to be due to swelling and sonication, were observed. It is considered that the reason why almost all of the deposits could be removed under the conditions used here is that the crystal structure at the center of the GM granules was maintained and the surface layer was limitedly swollen. It was speculated that some of the deposits were shed by limited swelling, and then the remaining deposits were removed by ultrasonic energy. From the above results, it was clarified that almost all of the surface deposits of GM granules could be removed by sonication using flours and raw corms in the presence of an additive of urea or guanidine hydrochloride under appropriate conditions.
 
 著者らは最初の報告1)において,こんにゃく精粉(以下,精粉)を適当な濃度のエタノール水溶液中に浸漬した後,メチレンブルー(MB)で染色して顕微鏡観察を行い,精粉におけるグルコマンナン粒子の表面には精粉製造工程中に部分的に損傷・破壊された芋組織由来の細胞壁や中葉の一部または断片が付着していることを明らかにした。
 前報2)では,こんにゃく芋(以下,生芋)から作製した加熱芋またはアルカリ浸漬芋をエタノール水溶液中で粉砕処理し,得られた粉砕物の顕微鏡観察を行い,いずれの場合にも,粒子表面に細胞壁や中葉などの付着物がほとんどないグルコマンナン(以下,GM)粒子が得られる可能性があることを明らかにした。しかし,わずかではあるが付着物のある粒子も観察され,これまでに用いた方法では付着物のすべてを除去することは困難であった。その要因の一つとして,中葉の一部が粒子表面に食い込むという芋組織固有の特性が関係するのではないかと推測した。
 これらの結果を踏まえ,本研究では,精粉および生芋を用いてGM粒子の表面付着物のすべてを除去(剥落)できるか,その可能性について検討した。方法として,精粉または生芋から作製した粉砕物にエタノール水溶液で調製した添加剤溶液を加え,さらに超音波処理を行い,その影響を調べることにした。用いた添加剤はタンパク質変性剤3)およびGMゲルの解膠剤4)を参考にした。結果としては,尿素または塩酸グアニジンの添加剤溶液を加えて超音波処理することにより,付着物のほぼすべてを除去できることが分ったので報告する。
 
 

研究解説   

タマネギの外皮粉末の継続摂取がヒト微生物叢に及ぼす影響:
予備的介入研究とin vitro糞便培養研究

野本 康二 (NOMOTO Koji),山口 元輝 (YAMAGUCHI Genki),鈴木 英梨香 (SUZUKI Erika),小林 大樹 (KOBAYASHI Daiki)
 
 本論文は,著者らがBritish Journal of Gastroenterology(2020; 2(4): 204-213 doi: 10.31488/bjg.1000123)誌に報告した論文“Effect of continuous intake of onion outer skin powder on human microbiota: A preliminary intervention study and in vitro fecal culture study”を邦訳したものである。
 
要約
 この予備的介入研究の主な目的は,タマネギの外皮粉末顆粒(食用賦形剤を含む顆粒にしたタマネギの皮粉末)の継続的な摂取がヒトの腸内細菌叢に及ぼす影響を,分子微生物学的な手法により明らかにすることである。第2の目的は,タマネギの皮粉末を添加したヒトの糞便培地での継続培養で特徴的な増殖を示す細菌株を分離し,それらのケルセチン代謝における役割などの基本データを取得することである。ヒト試験では,被験者数が少ないため統計的に有意な結果は期待できなかったが,タマネギ外皮粉末顆粒の摂取が体調を改善し,排便の頻度を安定させる傾向があることを示唆する結果が得られた。また,腹部症状などの副作用は見られず,この製品の安全性が示唆された。被験者便の腸内細菌数は,摂取の最初の週に減少する傾向があったが,摂取2週目と摂取後にリバウンドを示し,摂取前と同様または摂取前よりも高いレベルを示すことが腸内の最も優勢な4つの嫌気性細菌グループの定期的な定量的PCR分析から示された。被験者の新鮮な糞便中の有機酸濃度は,タマネギの皮粒の継続的な摂取が摂取開始後に比較的短期間で腸内環境の有意な変化を引き起こす可能性があることを示唆した。タマネギの外皮粉末存在下での新鮮な糞便のin vitro嫌気性培養から,短鎖脂肪酸(SCFA)の有意な産生とケルセチンの分解が示されたが,これは被験者の糞便に応じて特徴的な代謝パターンを示し,in vitroでタマネギの外皮粉末存在下でインキュベートした場合に特定の細菌分離株のみがケルセチンを分解することが分かった。腸内においてどの内在性微生物が潜在的な生物活性のあるタマネギの外皮粉末の代謝に関与しているのかを明らかにするために,更なる研究が必要である。
 
   

シリーズ9回目 健康食品の有効性・安全性評価におけるヒト試験の現状と課題

— 機能性表示食品の科学的根拠としてのシステマティックレビューとメタアナリシス —

鈴木 直子 (SUZUKI Naoko),田中 瑞穂 (TANAKA Mizuho),野田 和彦 (NODA Kazuhiko),波多野 絵梨 (HATANO Eri),金子 拓矢 (KANEKO Takuya),中村 駿一 (NAKAMURA Shunichi),柿沼 俊光 (KAKINUMA Toshihiro),馬場 亜沙美 (BABA Asami),山本 和雄 (YAMAMOTO Kazuo)
 
9th in the series. Current Status and Issues of Clinical Trials for Efficacy and Safety Evaluation of Health Foods
―Systematic review and Metanalysis as Scientific Evidence for Foods with Function Claims―
 
Keywords: clinical trials, health food, Foods for Specified Health Uses (FOSHU), Foods with Function Claims, Systematic review, Metanalysis
 
 
Authors: Naoko Suzuki *, Mizuho Tanaka, Kazuhiko Noda, Eri Hatano, Takuya Kaneko, Shunichi Nakamura, Toshihiro Kakinuma, Asami Baba, Kazuo Yamamoto
 
Affiliated institution: ORTHOMEDICO Inc.
[2F Sumitomo Fudosan Korakuen Bldg., 1-4-1 Koishikawa, Bunkyo-ku, Tokyo, 112-0002, Japan.]
 
 本連載ではこれまで8回にわたり,日本における健康食品制度の変遷や健康食品の有効性・安全性評価に用いられるランダム化比較試験,クロスオーバー試験,前後比較試験の概要と試験例,統計解析手法,例数設計について解説してきた。機能性表示食品制度では,表示しようとする機能性の科学的根拠を説明するものとして,①最終製品を用いた臨床試験(ヒト試験)または②最終製品または機能性関与成分に関する研究レビューのいずれかを提出する必要がある1)。しかし,2021年11月1日時点で,機能性表示食品の届出数は4651件(撤回を含む)であるが,その内最終製品を用いたヒト試験により機能性を評価したものは263件(撤回を含む)にとどまっている。そこで,最終回となる今回は,多くの届出に用いられている研究レビュー(システマティックレビューとメタアナリシス)について解説する。
 
 

製品解説

藤茶エキスの抗肥満作用
Anti-obesity effects of vine tea extract

山田 和佳奈(YAMADA Wakana),呉 剣波(WU Jianbo),清水 稔仁(SHIMIZU Norihito)
 
昨今における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって外出自粛となり,運動不足による「コロナ太り」が問題になっている。また,豊食の時代になって久しく,世界保健機関(WHO)の調査では肥満者の人口は1975年当時と比較してすでに3倍にまで増加している(2021年6月)1)。肥満は,高カロリーの食事や脂質,糖質の代謝障害によって引き起こされ,脂肪肝や脂質異常症などの病気の原因になるため,肥満に対して有効性を示す植物由来健康食品原料の需要は相変わらず高い。本稿では昨今の生活環境変化においてニーズの高いダイエット作用および肝保護作用が確認された当社の新商品である「藤茶エキス」について紹介する。
 
 

連載

複雑な病気セリアック病4

瀬口 正晴 (SEGUCHI Masaharu),吉野 精一(YOSHINO  Seiichi)
 
 ヒトの消化管は常に高い抗原負荷にさらされているため,摂取された食物に対する耐性を維持するための多くの戦略を開発している。通常の条件下では,粘膜免疫系は,抗原特異的T細胞のアネルギー(不応答化)とアポトーシスの組み合わせと,調節性 T細胞(Tregs)によるこれらの細胞の積極的な抑制により,これらの抗原に対する厳しい耐性を発達させた250)。これらのTregsは,とりわけ抗炎症性サイトカイン IL(インターロイキン)-10および形質転換成長因子βの産生を含む多くの阻害メカニズムを共有している。抑制活性に関する研究により,活性CDの粘膜ではTregs(サブセットFoxP3+)の数が有意に増加し,組織学的重症度と相関することが示されている251, 252)。しかし,Tregsの有益な抑制能力は,CD-15の腸粘膜で上方制御されるIL(インターロイキン)-15252)によって損なわれる可能性がある。経口耐性の獲得は複雑なプロセスであり,完全に理解されるにはほど遠い。グルテンに対する不耐性は,潜在的に2つの異なる現象の結果である可能性がある。最初の理由は,不明な理由により,特定の個人ではグルテンに対する耐性が決して発達しなかったことである。2つ目は,人生のある時点で以前の寛容が失われることである253)。病原体とグルテンの間の分子模倣がグルテン耐性の喪失を引き起こす可能性があるという仮説が立てられている。例えば,ヒトアデノウイルス12型のE1bタンパク質はα-グリアジンフラグメントと配列相同性を共有することが観察され254),カンジダ・アルビカンス由来の菌糸壁タンパク質1はα-およびγ-グリアジンと配列相同性を共有する255)。ただし,この仮説を裏付ける直接的な証拠や実験結果はない。
  
 

コーヒー博士のワールドニュース

本格的健康コーヒー「希太郎ブレンド・ドリップバッグ」
岡 希太郎

 「希太郎ブレンド」とは,一昨年のNHKテレビで「本格的健康コーヒー」として紹介されました。この名前はその番組の中で偶然つけられたものです1)。「希太郎ブレンド」とは焙煎度の差が最大となる2種類の焙煎豆を混合すること,および両者を任意の比率で混合して作るブレンドコーヒーのことです。
 
●希太郎ブレンドの調製法は日本特許で保護されている
  筆者がコーヒー研究を始めた今世紀のはじめ,市販焙煎豆の主流はブレンドでした。産地が異なる豆,品種が異なる豆等々,異なる2~3種類の生豆を混合して焙煎したものでした。異なる焙煎度の豆を煎ってから混ぜるブレンドは,筆者が探した限り見つかりませんでした。今もその状況はほとんど変わっていません。
 
 

野山の花 — 身近な山野草の食効・薬効 —

ソバFagopyrum esculentum Moench
(Polygonum fagopyrum L.) (タデ科Polygonaceae)
白瀧 義明(SHIRATAKI Yoshiaki)
 
 秋風の吹く頃,野山を歩いていると一面に広がるソバ畑に出会うことがあります。ソバは,中国南西部(雲南省北部)原産で古い時代に日本に伝えられ,現在では日本各地で栽培される一年生草本です。草丈60〜130cm,茎は直立分岐し円柱形で中空。葉は互生し柄が長く心臓形で先は鋭尖形。夏〜秋,短い総状花穂で白色または淡紅色の小さな花を多数つけ,稀に赤色の花をつけるのもあります。瘦果は黒褐色あるいは銀灰色,鋭い3稜のある卵型で堅い果皮の中に薄い種皮に包まれた胚乳と胚があり,そば粉の原料とされます。種まきをしてから70〜80日程度で収穫でき,痩せた土壌やpH6程度の土壌でも成長し結実することから日本では救荒作物として5世紀頃から栽培されていました。栽培されるソバには,夏型,秋型,中間型があり,栽培形態として春播きの夏蕎麦と夏播きの秋蕎麦があります。
 
 

母乳の力

第3章 母乳タンパク質の生体防御機能

 

1.母乳タンパク質とその消化により生じるペプチドの生体防御機能
 第1章では,母乳タンパク質の一般的性質と顕在的生体調節機能の一部を紹介しました。母乳タンパク質は消化管で消化され,アミノ酸,ジペプチド,トリペプチドとして腸管で吸収されるまでの間に,様々なペプチドを遊離します。それらのペプチドの中には,生体調節機能を持つものがあることは周知のところです。母乳タンパク質由来のペプチドの生体調節機能,すなわち潜在的調節機能への関心は,1950年に発表された“牛乳カゼインがリンタンパク質であることの意義”に関する論文に始まるのかもしれません。しかし,実際にカゼインホスホペプチドの生体調節機能が分ったのは,それから30年以上も経ってからです。その間,母乳タンパク質の消化により生じるペプチドの生体調節機能の報告は殆どなされませんでした。1979年の牛乳カゼインの消化物に,オピオイドペプチド(鎮痛ペプチド)が存在すると言う報告に端を発し,母乳タンパク質消化物の生体調節ペプチドの特性づけが一躍世界的に脚光を浴びるようになりました。わが国においても多くの研究がなされ,貴重な成果が得られています。それらの中には,牛乳カゼインの消化物から分離されたカゼインホスホペプチドやアンジオテンシンI変換酵素阻害ペプチドのように,わが国が世界に先駆けて法律的に制定した食品である“特定保健用食品(トクホ)”の原料になっているものもあります。一方,感染防御機能を始めとした生体防御機能は,母乳タンパク質の重要な機能です。牛乳カゼインの消化物にオピオイド(鎮痛)ペプチドが存在することが報告されたのと同年,フランスの研究グループは人乳カゼインのトリプシン消化物に食細胞を活性化するペプチドが存在することを報告しました。これが母乳タンパク質の潜在的生体防御機能に関する最初の報告です。今では,母乳タンパク質由来の多くの生体防御ペプチドの性質が明らかにされています。本項では,母乳タンパク質とその消化により生じるペプチドの生体防御機能を自然免疫促進機能と獲得液性免疫調節機能の観点から紹介します。合せて,母乳タンパク質とその消化により生じるペプチドの新生児の生体防御系における意義を考察します
 
 

Essay

Consideration of the Economic Effect of the 2020 Tokyo Olympics under the Spread of the Corona Virus (COVID-19) Infection:
A Comparative Analysis between the 1964 Tokyo Olympics and the 2020 Tokyo Olympics

Ryusuke Oishi*
*Correspondence to: Faculty of Economics, Meikai University
[1 Akemi Urayasu Chiba 279-8550, Japan.]
 
Abstract
  This study aimed to comparatively analyse the expenses incurred and the economic effects of the 1964 and the 2020 Tokyo Olympic games. Though held in the same place, the social and economic circumstances surrounding each event differed significantly. Due to the spread of the coronavirus disease (COVID-19), the 2020 Olympic games were postponed for a year and were held without spectators. As a result, additional expenses were incurred and potential ticket and other inbound income from foreigners visiting Japan were unrealised. The expected economic effect, unfortunately, was not obtained; much unlike the 1964 Olympic games, which contributed significantly to Japan’s economic growth primarily through large-scale infrastructure developments in the capital. However deficient in this respect, regardless of the setbacks, and especially given the circumstances, the ultimately successful hosting of the 2020 Tokyo Olympic games is a testament to the abilities of Japan (Tokyo).