New Food Industry 2024年 66巻 10月号

原著 健常な日本人女性における下部尿路症状 (LUTS) の分布

馬場 亜沙美 (BABA Asami),波多野 絵梨 (HATANO Eri),鈴木 直子 (SUZUKI Naoko), 柿沼 俊光 (KAKINUMA Toshihiro),髙良 毅 (TAKARA Tsuyoshi)

Distribution of Lower Urinary Tract Symptoms (LUTS) in Healthy Japanese Women

Authors: Asami Baba 1*, Eri Hatano 1, Naoko Suzuki 1, Toshihiro Kakinuma 1, Tsuyoshi Takara 2
* Corresponding author: Asami Baba
1 Affiliated institution:
1 ORTHOMEDICO Inc. [2F Sumitomo Fudosan Korakuen Bldg., 1-4-1 Koishikawa, Bunkyo-ku, Tokyo, 112-0002, Japan.]
2 Medical Corporation Seishinkai, Takara Clinic [9F Taisei Building, 2-3-2, Higashi-gotanda, Shinagawa-ku, Tokyo, Japan.]

Keywords: Lower Urinary Tract Symptom (LUTS), Core Lower Urinary Tract Symptom Score (CLSS), Foods with Function Claims, Supplement

Objective The aim of this study was to investigate the number of potential LUTS patients among Japanese women.
Methods The subjects were women that were registered on “Go106”, a subject recruitment site operated by ORTHOMEDICO Inc., and were friends with “Go106” account in LINE. We investigated their age, presence of urinary problems, frequency of hospital visits, and Core Lower Urinary Tract Symptom Score (CLSS) with a web-based questionnaire.
Results The number of respondents was 1372, of which the effective response rate was 89.3%. In this survey, we divided the respondents into three groups: "No urinary problems; group 1," "Have urinary problems but do not consult a doctor; group 2," and "Have urinary problems and consult a doctor; group 3." And within each group, the respondents were further divided into, total, those aged 40 or above and those aged under 40. We investigated the lower urinary tract symptoms in each group. Among all respondents, 540 were from group 1, 671 were from group 2, and 14 were from group 3. In all the groups, the most troubling symptom was "Leakage of urine when coughing, sneezing, or exercising."
Conclusions The percentage of the population who had problems with urination but did not consult a doctor was the largest, and about 40% of women aged under 40 were identified to have urinary problems.

 下部尿路症状(lower urinary tract symptom: LUTS)は国際禁制学会による用語基準により,大きく,蓄尿症状,排尿症状,排尿後症状の3種類に分類される1)。症状は各個人の主観により,性差はないとされるが,女性では,骨盤底機能障害による腹圧性尿失禁が多く,蓄尿症状が主体であることが多いと知られている1)。また,リスク因子として,加齢,肥満,便秘,高血圧,糖尿病などが報告され,分娩が女性特有の重要なリスク因子として挙げられている1)。
 日本で実施された全国の40歳以上の男女を対象としたLUTSの疫学調査は,尿意切迫感や夜間排尿回数などの項目で,男女どちらも加齢に伴って,有症者の増加が認められている2)。一方で,40歳未満の若年者においても排尿の悩みが報告されている3–5)。年代別に排尿に関する悩みの有訴者や症例を調査したこれまでの研究では,40歳未満においても一定の割合で,排尿症状を有する者が報告されていることから,LUTSは中高年者に限定される悩みではないと考えられる。しかし,これまでに,排尿についての悩みを持つ者の通院の有無など,健常者の実態について調査した研究報告はほとんどない。
 また,近年では排尿に関する悩みを緩和する機能性表示食品も販売されるなど,食品における有効性の研究も進みつつある。
 そこで,本調査では,排尿についての悩みがない層,悩みはあるが通院していない層,悩みがあり通院している層の3層と,40歳以上と未満に分け,各層における下部尿路症状および背景の実態数の調査を目的とした。

解説 培養細胞を用いた抗老化作用の評価系の開発: クマザサアルカリ抽出液は試験管内老化を抑制する

坂上 宏(SAKAGAMI Hiroshi),堀内 美咲(HORIUCHI Misaki),勝呂 まどか(SUGURO Madoka),戸枝 一喜(TOEDA Kazuki),大泉 高明(OIZUMI Takaaki)

Alkaline Extract of Leaves of Sasa sp. Inhibits in vitro Senescence.

Authors: Hiroshi Sakagami 1*, Misaki Horiuchi 2, Madoka Suguro 2, Kazuki Toeda 2, Takaaki Oizumi 2
* Corresponding author: Hiroshi Sakagami 1

Affiliated institutions:
1 Meikai University Research Institute of Odontology (M-RIO)
[1-1 Keyakidai, Sakado, Saitama 350-0382, Japan.]
2 Daiwa Biological Research Institute Co,. Ltd.
[Kanagawa Science Park D Bldg, 8th fl. 3-2-1 Sakado, Takatsu-ku, Kawasaki, Kanagawa 213-0012, Japan.]
Production Headquarters (Tateshina Plant):
[11400-1018 Tamagawa aza Harayama, Chino, Nagano, 391-0011 Japan.]

Key Words: anti-ageing, cultured cells, evaluation systems, Sasa HealthⓇ, alkaline extract of leaves of Sasa sp,

Abstract
In order to quantify the anti-aging effects of various medicinal plants, a new evaluation system was explored using cultured cells. When human normal cells are cultured, they stop proliferating after about 50 divisions, so they have been used as a model of in vitro cell senescence. We have reported previously that the progression of aging and the decline in colony formation capability are correlated. Although the colony formation assay needs only for 2 weeks of incubation, it is difficult to quantify due to the uneven size distribution of the colonies. Normal cells were found to show higher serum requirements than cancer cells. Therefore, the number of cells inoculated to a 96-microwell plate and serum concentration in the culture medium were optimized to keep the cells growing for 2 weeks. Fresh medium was added (overlayed) at the midpoint of incubation to prevent the depletion of glutamine. Alkaline extract of the leaves of Sasa sp. (SE) more significantly promoted cell division of normal human dermal fibroblasts, compared to normal human oral cells (gingival fibroblasts, periodontal ligament fibroblasts, and pulp cells) and normal lung fibroblasts. This result suggests the possible skin protective effect of SE.

要旨
 種々の薬用植物の抗老化作用を定量化するために,培養細胞を用いた評価系(マイクロプレートを用いた培地重層法)を新たに開発した。ヒト正常細胞を培養すると,約40〜70回の分裂後,増殖を停止するため,試験管内細胞老化モデルとして使われてきた。我々は,老化の進行とコロニー形成能の低下は,相関することを報告した。コロニー形成法では,約2週間の培養で結果が出るが,コロニーの大きさが不均一に分布してしまうため,定量化が難しかった。正常細胞は,がん細胞に比べて,血清の要求性が高いことが判明した。そのため,96穴マイクロプレートに播種する細胞数と血清濃度を至適化し,途中で新鮮培地を重層することにより2週間培養できる方法を開発した。クマザサアルカリ抽出液(ササヘルスⓇ)(SE)は,正常ヒト口腔細胞(歯肉線維芽細胞,歯根膜線維芽細胞,歯髄細胞)や正常肺線維芽細胞と比較して,正常ヒト皮膚線維芽細胞に対して,より効果的に細胞増殖を促進した。この結果は,SEのスキンケア物質としての有用性を示唆する。

シリーズ EQUATOR Networkが提供するガイドラインの紹介
CONSORT Harms 2022 statement, explanation, and elaboration updated guideline for the reporting of harms in randomized trialsの和訳

著者
NaDaniela R. Junqueira, Liliane Zorzela, Susan Golder, Yoon Loke, Joel J. Gagnier, Steven A. Julious, Tianjing Li, Evan Mayo-Wilson, Ba Pham, Rachel Phillips, Pasqualina Santaguida, Roberta W. Scherer, Peter C. Gøtzsche, David Moher, John P.A. Ioannidis, Sunita Vohra

翻訳
馬場 亜沙美(BABA Asami), 鈴木 直子(SUZUKI Naoko), 野田 和彦(NODA Kazuhiko), 波多野 絵梨(HATANO Eri),髙橋 徳行(TAKAHASHI Noriyuki), LIU XUN, 新林 史悠(SHINBAYASHI Fumiharu), 板橋 怜央(ITABASHI Reo), 松田 洋志郎(MATSUDA Yojiro), 柿沼 俊光(KAKINUMA Toshihiro), 山本 和雄(YAMAMOTO Kazuo)

下部尿路症状(lower urinary tract symptom: LUTS)は国際禁制学会による用語基準により,大きく,蓄尿症状,排尿症状,排尿後症状の3種類に分類される1)。症状は各個人の主観により,性差はないとされるが,女性では,骨盤底機能障害による腹圧性尿失禁が多く,蓄尿症状が主体であることが多いと知られている1)。また,リスク因子として,加齢,肥満,便秘,高血圧,糖尿病などが報告され,分娩が女性特有の重要なリスク因子として挙げられている1)  日本で実施された全国の40歳以上の男女を対象としたLUTSの疫学調査は,尿意切迫感や夜間排尿回数などの項目で,男女どちらも加齢に伴って,有症者の増加が認められている2)。一方で,40歳未満の若年者においても排尿の悩みが報告されている3–5)。年代別に排尿に関する悩みの有訴者や症例を調査したこれまでの研究では,40歳未満においても一定の割合で,排尿症状を有する者が報告されていることから,LUTSは中高年者に限定される悩みではないと考えられる。しかし,これまでに,排尿についての悩みを持つ者の通院の有無など,健常者の実態について調査した研究報告はほとんどない。  また,近年では排尿に関する悩みを緩和する機能性表示食品も販売されるなど,食品における有効性の研究も進みつつある。  そこで,本調査では,排尿についての悩みがない層,悩みはあるが通院していない層,悩みがあり通院している層の3層と,40歳以上と未満に分け,各層における下部尿路症状および背景の実態数の調査を目的とした。

連載 エンセット(ENSET),偽バナナ)
 

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu),楠瀬 千春(KUSUNOSE Chiharu)

1984年から1985年にかけてエチオピアを襲った干ばつは,数百万人が依存していた食糧作物が徐々に倒れるという恐ろしい悲劇を引き起こした。ドイツから日本,オーストラリアに至るまで,テレビがその光景を各家庭に中継したため,その恐怖は世界中の人々の目の前で展開され,より記憶に残るものとなった。これまで歩く骸骨,妊娠したかのように膨らんだ腹を持つ子供たち,母親の乳房で死んでいく赤ん坊の姿のようなものをリアルタイムで目撃した視聴者はほとんどいなかったはずだ。その映像は庶民の良心に衝撃を与えた。今でもそうだ。「エチオピアの地獄の深さの飢餓を目の当たりにした」トニー・P・ホール米下院議員は言う。  数百万人の犠牲者の中には,エチオピア南西部のソンボ族も含まれている。彼らは穀物に頼って生活していた。1980年代半ば,彼らのテフ,ソルガム,トウモロコシの畑からはほとんど何も収穫できなかった。空っぽの棚と空っぽの胃袋に直面したソンボ族は,一斉に逃げ出した。イルバボール州の村から東へ向かい,なかにはアディスアベバから100キロも離れていないウォリソという町まで,500キロもの道のりをとぼとぼと歩く者もいた。この長く辛いトレッキングで多くの者が命を落としたが,生き残った者たちは緑の高地で,家よりも高い野菜というまったく新しいタイプの食糧資源を発見した。首都アベバにほど近い温暖な土地で,彼らはこの巨大なハーブの栽培を独学で学んだ。ソンボに戻ると,彼らは植え付け用の資材を家に持ち帰り,この異質な食べ物は彼らの日常食となった。それはすでに実を結んだ。1992年,豪雨が続いた年,コーヒーの大部分と穀物の90%が病害に倒れた。しかし,このときは飢饉もなく,救いを求めて旅に出ることもなかった。ソンボは巨大な野菜で生活した。

伝える心・伝えられたもの
—奈良散歩 酪・蘇(酥)・フトルミン—

宮尾 茂雄

昔の話で恐縮であるが,私の子供たちが小学生の頃,毎年春休みを利用して奈良,山の辺の道,飛鳥などを3泊ほどかけて歩き廻った。まだ高松塚古墳はこんもりした竹藪,平城宮跡はだだっ広い原っぱで周囲には畑がのこっていた。子供たちは旅行というのはリュックサックを背負い『てくてく歩き廻る』ことだと思っていたという。  2024年4月上旬,ちょうど時間があいたので家族みんなを奈良の旅に誘った。しかし大人たちからは年度初めで忙しいと断られ,同行してくれたのは今年5年生になった孫一人だった。
鹿せんべいで飽食  久しぶりに訪れた奈良公園は海外からの観光客であふれていた。東大寺大仏殿に参拝するにはかなりの行列を覚悟しなければならなかった(写真1)。以前なら「鹿せんべい」をおねだりするために突進してくる鹿が,当日は朝から貰い過ぎて飽食状態になり,観光客には関心を示さず食後の休息を楽しんでいた(写真2)。それでもメイン道路を離れて大仏殿の裏手から二月堂に至る登り坂の道には,観光客も少なく,その辺を縄張りとする鹿たちが丁寧にお辞儀をして「鹿せんべい」をおねだりしていた。  二月堂からはちょうど咲き始めたサクラや大仏殿の大屋根,奈良盆地の向こうには生駒山地が見えた。ここまで上がって来ると奈良にやってきたという実感がわく。私のお気に入りの場所である(写真3)。   博物館巡り  2日目は朝からあいにくの雨降り,午前中は奈良国立博物館の常設展を見に行った。子供向きのガイドブックを読みながら仏像を見ていると博物館ボランティアガイドの方が,小学生にも分かり易いように説明して下さった。日本で2番目に大きな仁王像の修復作業が終了し,館内に展示されていたので,その大きさが実感できた(写真4)。孫も熱心にお話を伺っているので,なるほどと思うことも多く,仏像とゆっくり対面できて良かった。

連載 乳および乳製品の素晴らしさ
乳糖の分解手法の開発と将来性「ラクターゼ牛乳は乳糖不耐に対する救世主」

齋藤 忠夫(SAITO Tadao)

乳糖(ラクトース)は牛乳に含まれる固形の乳成分の中で,約4.5%と一番多く含まれている成分です。乳糖は牛乳にほのかな甘みと優しさを与えてくれる成分であり,乳仔にとっては乳脂肪と並んで重要なエネルギー源です。哺乳動物の定義は,乳を合成分泌して乳仔に与える動物ですが,成長して成獣(大人)になっても乳を摂取しているのは人間だけです。他の哺乳動物では,大人になってから乳を飲むことはまずありません(離乳)。乳糖を構成するガラクトースについては,乳仔の脳が急速に成長する際に脳内で合成される糖脂質の糖鎖構造に直接使用されることが推定されています。従って,乳児にとって乳糖は必須の成分ですが,脳が出来上がった大人にとっては不要な成分と言えるかもしれません。

連載 世界のメディカルハーブ No.25 トウガラシ

渡辺 肇子(WATANABE Hatsuko)

色と味でテーブルを彩る多様性のハーブ 
 トウガラシはメキシコ,東南アジア,中国,南イタリア,カリブ諸島の島々,北アメリカ大陸のケイジャン文化などに見られる料理のうち,多くのスパイシーな味つけものに入っている植物です。生の果実も,完熟した赤唐辛子を乾燥させた香辛料も利用され,これらはカイエンペッパー,チリペッパー,レッドペッパーなどとも呼ばれます。  中南米原産の植物で,9,000年以上も前から栽培され,日常的に食べられていました。トマトやなす,じゃがいもと同じナス科に属し,草丈は1m前後ですが,霜の降りない地域ではそれ以上になることもあります。茎は滑らかで,深緑色の互生葉には艶があり,楕円形や槍形をしています。6~8月にクリーム色の小さな花をつけ,これが緑色の果実になります。中には20個ほどの種子が入っていて,これを収穫したものが青唐辛子です。収穫しないと9〜10月頃に赤く色づきはじめ,熟すと鮮やかな赤になります。果実は種によって2cmほどの球状のものから,30cmを超えるバナナ形のものまであり,実に多様です。