New Food Industry 2024年 66巻 9月号

原著 Effect of different yeasts on lean bread quality

Authors: Mitsuho Yamada 1, Akiko  Koizumi 2,  Machiko Mineki 3

* Corresponding author: Mitsuho Ymada 1
Affiliated institutions: 1 Natural Bread School Brezel [1-3-25 Minamiurawa, Minami-ku, Saitama, 336-0017, Japan], Tokyo Kasei University and Institute of Food Science of Egg [1-18-1 Kaga, Itabashi-ku, Tokyo, 173-8602, Japan]
2 Tamagawa University [6-1-1 Tamagawa gakuen, Machida-shi, Tokyo, 194-8610, Japan]
3 Tokyo Kasei University and Institute of Food Science of Egg [1-18-1 Kaga, Itabashi-ku, Tokyo, 173-8602, Japan]

Abstract
  The most widely known natural bread yeasts are Shirakamikodama yeast (S) and Hoshino natural yeast leaven (H). However, few studies have investigated the characteristics of these yeasts and their effects on bread quality. We previously reported on the quality and taste characteristics of bread made using these two yeasts. In this study, we compared the quality and bread-making characteristics of lean bread prepared using S and H, with instant dry yeast serving as the control. We evaluated the weight, volume, water content, color, texture, aromatic compound content, and structure of the prepared bread. Furthermore, to assess the flavor characteristics and favorability of the resulting bread, sensory evaluations were performed. S bread had the smallest volume. Regarding texture, S bread was the hardest, least cohesive, and most adhesive. In the visual evaluation, S bread showed small alveolar cells extremely thick alveolar cell walls, and poor elongation of the gluten strands. Moreover, the alveolar cell walls appeared to be severely damaged, exposing numerous starch granules, both large and small, and spheres that are believed to be fat. The score was 3.2 in the 7-point scale palatability sensory evaluation, placing it in the “somewhat unfavorable” range. These results suggest that S is not a highly suitable yeast for lean bread preparation. H bread had the highest volume. Regarding texture, H bread was the softest and most cohesive. It is speculated that this result is because of the presence of amylases ostensibly produced by kōji mold in H, which breaks down the starch in the dough, thereby providing a continuous sugar and nutrient supply to the yeast. In H bread, the alveolar cell walls contained greater numbers of small pores and were thinner than in the other two bread types. Additionally, cracks were observed in the alveolar cell walls. It is believed that these cracks may be caused by proteases derived from the kōji mold in H acting on the cell membranes, gluten network, and cell walls. In the overall palatability sensory evaluation, H bread received the highest overall palatability score (4.3) among the three bread types, placing it in the “neither” range, suggesting that the bread can be preferred. These results suggest that H can be a suitable leaven for lean bread preparation.

酵母の違いがリーンなパンの品質に与える影響
山田 密穂 (YAMADA Mitsuho),小泉 昌子 (KOIZUMI Akiko),峯木 眞知子 (MINEKI Machiko)

Key Words:白神こだま酵母,ホシノ天然酵母パン種,パン,発酵,テクスチャー特性,官能評価,走査型電子顕微鏡

要旨
 天然酵母パンには,広く知られている白神こだま酵母(以下,S),ホシノ天然酵母パン種(以下,H)等があるが,酵母の特性や製パンへの影響についての研究は少ない。これら酵母を用いた食パンの品質および食味特性については既に報告した。本研究では,リーンなパンの品質および食味特性を比較・検討し,無糖パンに与える酵母の影響を明らかにすることを目的にした。対照酵母はインスタントドライイースト(以下,D)とした。体積・重量・比容積・水分含有率・テクスチャー・色度・香気成分を測定し,組織構造を観察した。また,官能評価による食味特性を検討した。S試料は,体積が小さく,かたく,凝集性の値が低かった。組織観察では,S試料の気泡のサイズは小さく,気泡壁が極めて厚く,グルテンストランドの伸長は悪かった。また,気泡壁面の著しい損傷が観察され,大小のでんぷん粒と,脂肪と思われる球体が多く露出していた。7段階評点法による嗜好型官能評価の総合評価において,S試料の評点は3.2で,「やや好ましくない」という評価であった。リーンなパンにおいて,Sは適性が低い可能性があることが示唆された。H試料はパンの体積が最も大きく,やわらかく,凝集性の値が高かった。Hは材料に麹を含むため,麹菌が生産したと考えられるアミラーゼがドウ中のでんぷんを分解することにより糖が供給され続け,酵母の栄養源となったと推察された。組織観察では,H試料は気泡膜に小孔が多く,気泡壁の厚さが薄かった。また,気泡壁面に複数の亀裂が生じており,Hの材料に含まれる麹由来のプロテアーゼが,気泡膜・グルテンネットワーク・気泡壁面に作用したためと推察された。嗜好型官能評価では,H試料の総合評価は4.3で3試料内で最も高く,好まれる可能性がある。Hはリーンなパンへの適性があることが示唆された。

解説 食品臨床試験において風邪症状の予防を検証する研究デザインの提案

馬場 亜沙美 (BABA Asami),鈴木 直子 (SUZUKI Naoko),野田 和彦 (NODA Kazuhiko), 波多野 絵梨 (HATANO Eri),髙橋 徳行 (TAKAHASHI Noriyuki),中村 駿一 (NAKAMURA Shunichi),LIU XUN ,柿沼 俊光 (KAKINUMA Toshihiro),山本 和雄 (YAMAMOTO Kazuo)

Proposed study design prevention of cold-like symptoms in food clinical trials

Authors: Asami Baba 1*, Naoko Suzuki 1, Kazuhiko Noda 1, Eri Hatano 1, Noriyuki Takahashi 1, Shunichi Nakamura 1, Xun Liu 1, Toshihiro Kakinuma 1, Kazuo Yamamoto 1
* Corresponding author: Asami Baba 1
Affiliated institution: 1 ORTHOMEDICO Inc. [2F Sumitomo Fudosan Korakuen Bldg., 1-4-1 Koishikawa, Bunkyo-ku, Tokyo, 112-0002, Japan.]

 免疫力に関連した機能性表示食品について,「機能性表示食品の届出情報検索」1)というデータベース利用して調査すると,近年,その届出数が増加していることがわかる。「表示しようとする機能性」の検索ボックスにキーワードとして「免疫」と入力すると,「最終製品を用いたヒト試験(ヒトを対象とした試験)により,機能性を評価している。」と「最終製品に関する研究レビュー(一定のルールに基づいた文献調査(システマティックレビュー))で,機能性を評価している。」では0件であるが,「最終製品ではなく,機能性関与成分に関する研究レビューで,機能性を評価している。」では104件の食品が抽出された(2024年6月14日時点)。「免疫」を表示した機能性表示食品は2020年から存在しており,2023年度には32件であった。Cochrane ReviewsにおいてZhao Y, et al.(2022)2)の研究は,プラセボまたは無治療と比較した場合にプロバイオティクスが,上気道感染症(Upper Respiratory Tract Infection; URTI)と1回以上診断された人数を約24%減少させる可能性,URTIと3回以上診断された人数を約41%減少させる可能性,急性のURTIの発生率(特定期間中の新しい症例の数)を約18%減少させる可能性,急性のURTIの1回の平均症状持続期間を約1.22日減少させる可能性,URTIに対する抗生物質の使用人数を約42%減少させる可能性および副作用(何らかの害)を発現した人数を増加させない可能性を示した。これらのエビデンスは,それぞれ低度または中程度の確実性があると結論付けられている。したがって,食品がURTIを予防する可能性は十分にある。  機能性表示食品制度では,予防効果を暗示させる表現が認められないため3),「免疫機能の維持」などの表示にとどまっている。しかし,このような制度とは切り離して,風邪症状の予防効果を検証することは機能性を有した食品の可能性を拡大する上で重要である。しかし,我々の経験的に,現在実施されている食品を介入とした臨床試験(ヒト臨床試験)の多くは,機能性表示食品の届出のために行われおり,表示が困難なアウトカムを検証する試験は少ない。そこで,本項では風邪症状の予防効果を検証するための研究デザインとして,Satomura K, et al.(2005)4)の研究を紹介し,食品での臨床試験において適応可能かを検証する。

解説 冷凍ドウの製パン性低下の原因について

森元 直美 (MORIMOTO Naomi)

パンは,材料の混合(ミキシング)にはじまり,一次発酵,成形,二次発酵(ホイロ),焼成と一連の長い工程を通して作られる。また,パン生地は生きたイースト菌を含んだ発酵体で,時々刻々と変化するため,各工程に入るタイミングによってパン品質が大きく変化する。そのため,一度,生地を捏ね始めるとパンを焼き上げるまで待ったなしの作業を続ける必要があり,パン職人には長時間労働が付き物であった。しかし,産業の近代化とともに,労働環境への意識が高まり,パン職人にも労働環境の改善が望まれるようになった。そこで,パン生地を冷凍貯蔵する方法が1960年代アメリカで考案されたのである。  この冷凍ドウの利点は,製パン工程における作業の中断を可能にすることである。つまり,製パン工業での作業の効率化や需要に合わせて供給量を調整できること,短時間で少量多種類の製品をラインアップできること,さらに消費者に焼き立てのパンを提供できるようになることである。一方,冷凍ドウの欠点は,パン高,比容積の低下といったパン品質の低下である。そのため,その原因や改良方法が数多く研究されてきた。その一つは,パン酵母の冷凍障害に関するもので,イースト活性の低下やイーストの死細胞からドウ中にしみだすグルタチオンなどの還元物質が,ガス発生力の低下やドウの伸展性を失わせる問題である1-3)。この問題の改善のために冷凍耐性イーストが開発された。だが,そのイーストを用いても製パン性の改良効果は十分ではない。Wolt と D’Appoloniaは,冷凍によるタンパク質の伸展性への影響が冷凍ドウの製パン性において重要であると主張した4)。さらに,冷凍によって引き起こされるパンドウ自体の変化,例えば氷結晶の形成によるグルテン構造の損傷5),イーストを含むドウの冷凍貯蔵期間・冷凍解凍サイクル時のドウの弱体化6-8)といった問題が報告された。 多くの研究から,冷凍に向く生地や冷凍・解凍方法などの改良を受けて冷凍ドウの利用は伸びつつある。しかし,それでもパン生産量全体の約8%(農林水産省,食品製造業生産量,令和4年9))であり,とりわけ食パンのようなリーンな配合での利用が困難で,それに至っては1.1%(農林水産省,食品製造業生産量,令和4年9))しか利用されていない。そこで,本研究はこの製パン性低下の原因を調べ,その改良方法を見出すことを目的とした。

連載 エグシ(EGUSI)(スイカの1種)
 

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu),楠瀬 千春(KUSUNOSE Chiharu)

エグシはスイカによく似ているため,ほとんどの植物学者はスイカだと思っている。スイカもアフリカ原産である。しかし,エグシの実は赤くも,うまくも,甘くもない。実際,白くてドライな感覚であり,反吐が出るほど苦い。猿でさえ手を出さない果物のひとつである。しかし,エグシは食用作物である。そして決して小さいものではない。  エグシは,ガーナや他の数カ国では“ネリ”と呼ばれる。エグシ(この用語はヨルバ語由来とする説とハウサ語由来とする説がある)は,西アフリカの多くの言語的境界を越えて,この種の総称となっている。白くて大きなメロンの種子のような種子のために栽培される。スープが生活に欠かせない地域である西アフリカでは,エグシは主要なスープの材料であり,毎日の食事によく使われる。粗挽きにしてシチューにとろみをつけたり,蒸し餃子にして広く親しまれている。浸し,発酵させ,煮て,葉に包んで好みの食品調味料を形成するものもある。ナイジェリアでは「オグリ−イシ」,ベナンでは「アブローダ」と呼ばれる。干しエビ入りか干しエビなしが一般的。また,ローストしてピーナッツバターのようなスプレッドにすることもある。ピーナッツや胡椒と一緒に炒り,油性のペースト状にしたものもある。ナイジェリアでは「オセ・オジ」と呼ばれる。

解説 Effects of Sakakibara hot spring water (5T) on suppressing itching in mice

Authors: Yeunhwa Gu 1*, Takenori Yamashita 2 and Tota Inoue 3

* Corresponding author: Yeunhwa Gu 1
Affiliated institutions:
1 Chairperson International Affairs Department of Radiological Science, Graduate School of Health Science, Faculty of Health Science Junshin Gakuen University [1-1-1 Chikushigaoka, Minami-ku, Fukuoka 815-8510 Japan.]
2 Graduate School of Health Science, Suzuka University of Medical Science
3 Mie breathing swallowing rehabilitation clinic

Abstract
 In this study, we investigated the relationship between seven types of hot spring water and the itch-transmission mechanism of dermatitis and itching in mice. It is clear that activation of the transcription factor STAT3 in sensory nerves plays an important role in the transmission of itch associated with dermatitis. In this study, we compared new natural hot spring waters for itch such as dermatitis, and it is expected to contribute to their development. We demonstrated that IL-31, which is deeply involved in dermatitis itch, causes itch by acting on receptors expressed in sensory nerves 1-8). We also showed that activation of the transcription factor STAT3 downstream of the IL-31 receptor is important for itch induction. Furthermore, we found that STAT3 in sensory nerves is important for the expression of IL-31 receptors and neuropeptides involved in itch transmission. It was also suggested that STAT3 in sensory nerves is important not only for IL-31-dependent itch but also for IL-31-independent inflammatory itch 9-14). These results suggest that the development and improvement of STAT3 inhibitors may lead to new improvements in itch.  

製品解説 水産加工品の食品ロス軽減に貢献できる食品添加物の利用法

中島 圭右(NAKASHIMA Keisuke) ,大坪 弘樹(OHTSUBO Hiroki)

近年,国内外問わず食品ロスの問題は深刻化しており,国連でも世界の重要な課題として位置づけている。具体的には,17の目標と169のターゲットからなる持続可能な開発目標(SDGs)の目標12-3にて「2030年までに世界全体の一人当たりの食品ロスを半減させる」という目標を掲げている。  わが国は周囲を海に囲まれた島国であるため,古くから水産加工品の生産が盛んに行われてきた。一方で,水産加工品の多くでは酸化による見た目や味の劣化が激しく,また微生物のコントロールを必要とするため,消費期限または賞味期限を延長することが難しく食品ロスを生じ易い。  そこで筆者は食品添加物を正しく使用することで水産加工品の消費期限や賞味期限を延長し,食品ロス削減に貢献することが重要であると考える。本稿ではまず食品添加物の役割について解説し,その上で水産加工品の酸化による劣化や微生物の増殖を抑えることができる当社食品添加物製剤について紹介する。

連載 乳および乳製品の素晴らしさ
牛乳中に新発見の機能性乳成分エクソソーム
「新成分エクソソームの存在とその未知の役割」

齋藤 忠夫(SAITO Tadao)

2000年代に入ってから研究で,牛乳中に新しい成分として「エクソソーム(Exosome)」という細胞外小胞の一種が発見されました。古くは1953年に,牛乳中に核酸を含む「ミクロソーム」としての報告がありました。エクソソームとして認識されたのは,2002年のOshimaらによるマウス乳腺上皮細胞の培養液中にその存在の確認がされたのが初めてであり,その後マウス乳中にも存在が確認されています。2010年には,国立がんセンター研究所と森永乳業㈱の泉らにより,エクソソームの重要成分であるマイクロRNA(miRNA)の存在がヒト母乳乳清中に報告され,その後ウシ,ブタ,ラット乳中にもその存在が確認され研究は進みました。  牛乳の成分科学の研究は全世界で進められ,これまでの研究の歴史から,牛乳からはほぼ全ての乳成分が単離精製されていたと考えられていました。それだけに,牛乳中に意外と多量に含まれている未知の成分であるエクソソームの発見は多くの研究者に衝撃を与えました。しかも,エクソソームの特性と生理機能を調べるうちに,小胞の内部にはとても大切な生命情報が含まれていることが徐々に明らかになって来ました。エクソソーム研究はまだ途中ですが,将来の医療分野への無限の可能性を秘めているかもしれません。今回は牛乳中のエクソソームについて少し詳しく考えてみたいと思います。

連載 世界のメディカルハーブ No.24 キャッツクロー

渡辺 肇子(WATANABE Hatsuko)

アマゾンに生息する抗炎症ハーブ
 南米の熱帯地域であるアマゾン川流域が原産のつる性の植物で,U. tomentosaとU. guianensisを含めてキャッツクローと呼ぶこともあります。スペイン語のuña de gato(ウニャ・デ・ガト)も英名と同じ意味です。  「猫のつめ」の名前の由来は,葉のつけ根の根に生える,そり返った鋭いとげです。対生につく葉は丸みを帯びたハート型で,表面は緑色で光沢があり,裏側は白い毛に覆われています。棘は動物から捕食されにくくするためでもありますが,それよりも重要な役割は他の植物の幹や枝につるを固定することです。キャッツクローは,着生する木の林冠部にまでつるを伸ばし,長さは30m以上になることもあります。

Special Contribution Essay
Ten Tokyo Impressions

Ruben Bix

  I’ll begin by saying I’ve been in Tokyo for about five weeks and, during this time, I’ve jotted down quite a few thoughts in my pocket notebook. Maybe some of them will be of interest. Others might be off the mark, but don’t judge these notes too harshly. They aren’t formed opinions as much as fleeting thoughts, incidental commentary coming from an old American writer who happened to be staying in Tokyo during a few weeks in the late Spring.