New Food Industry 2024年 66巻 7月号
シリーズ EQUATOR Networkが提供するガイドラインの紹介
Reporting of Multi-Arm Parallel-Group Randomized Trials
Extension of the CONSORT 2010 Statementの和訳
著者 Edmund Juszczak, MSc; Douglas G. Altman, DSc; Sally Hopewell, DPhil; Kenneth Schulz, PhD
翻訳 馬場 亜沙美 (BABA Asami),鈴木 直子 (SUZUKI Naoko),野田 和彦 (NODA Kazuhiko),波多野 絵梨 (HATANO Eri),髙橋 徳行 (TAKAHASHI Noriyuki),中村 駿一 (NAKAMURA Shunichi) ,LIU XUN,柿沼 俊光 (KAKINUMA Toshihiro),山本 和雄 (YAMAMOTO Kazuo)
Japanese translation of “Reporting of Multi-Arm Parallel-Group Randomized Trials Extension of the CONSORT 2010 Statement”
Authors: Edmund Juszczak, MSc 1; Douglas G. Altman, DSc 2; Sally Hopewell, DPhil 2; Kenneth Schulz, PhD 3, 4
Translator: Asami Baba 1*, Naoko Suzuki 1, Kazuhiko Noda 1, Eri Hatano 1, Noriyuki Takahashi 1, Shunichi Nakamura 1, Xun Liu 1, Toshihiro Kakinuma 1, Kazuo Yamamoto 1
Keywords: human clinical trial, Human trials, Food for specified health uses, Food with function claims, Research Design, CONSORT, guideline, outcome, SPIRIT
*Correspondence author: Asami Baba Affiliation (Author)
1 NPEU Clinical Trials Unit, National Perinatal Epidemiology Unit, Nuffield Department of Population Health, University of Oxford, Oxford, United Kingdom
2 Centre for Statistics in Medicine, Nuffield Department of Orthopaedics, Rheumatology and Musculoskeletal Sciences, University of Oxford, Oxford, United Kingdom
3 FHI 360, Durham, North Carolina
4 The University of North Carolina at Chapel Hill, School of Medicine
Affiliated institution (Translator)
1 ORTHOMEDICO Inc. [2F Sumitomo Fudosan Korakuen Bldg., 1-4-1 Koishikawa, Bunkyo-ku, Tokyo, 112-0002, Japan.]
本項について
本稿は,EQUATOR Networkが提供するガイドラインの一つである「Reporting of Multi-Arm Parallel-Group Randomized Trials: Extension of the CONSORT 2010 Statement」の本文を翻訳したものである。また,表は「Reporting of Multi-Arm Parallel-Group Randomized Trials: Extension of the CONSORT 2010 Statement」で拡張された項のみを抽出した。
キーポイント [Key Points]
問題 [Question]
並行群間比較デザインを用いている3群以上の多群間ランダム化比較試験を報告する場合,どのような追加情報を提供すべきか?
結果 [Findings]
この報告ガイドラインは,Consolidated Standards of Reporting Trials (CONSORT) 2010声明を拡張したものである。CONSORTの10項目が修正され,各拡張項目について,適切な報告例と付随する説明が示されている。
意義 [Meaning]
ガイドラインのチェックリストは,多群間ランダム化比較試験の透明性のある報告を促進し,厳密性と再現性の評価を助け,方法論の理解を深め,臨床医,ジャーナル編集者,査読者,ガイドライン作成者,資金提供者における結果の有用性を高めるのに役立つ可能性がある。
抄録 [Abstract]
重要性 [Importance]
ランダム化比較臨床試験における報告の質は最適とは言えない。研究の透明性を高めることが最も重要な時代において,不十分な報告は試験結果の信頼性と妥当性の評価を妨げている。Consolidated Standards of Reporting Trials (CONSORT) 2010声明は,ランダム化比較臨床試験の報告を改善するために作成されたが,その主な焦点は2群の並行群間比較試験であった。3群以上の並行群間比較デザイン (通常は等確率で,参加者をいずれかの治療群に同時にランダムに割り付け,治療を比較する) を用いる多群間比較試験は比較的よくある。多群間比較試験における報告の質は大きく異なるため,判断や解釈を困難にしている。CONSORT 2010声明の要素の大部分は,多群間比較試験にも同様に適用されるが,いくつかの要素には多群間比較への適応が必要であり,場合によっては,さらなる課題を明確にする必要がある。
目的 [Objective]
多群間比較試験の報告を容易にするため,CONSORT 2010声明の拡張版を示すこと。
デザイン [Design]
2014年のCONSORTグループ会議の後,全著者を含む「ガイドライン作成グループ」が結成された。著者らは2014年から2018年までの間,隔月で直接もしくはテレビ会議によって会合を行い,チェックリストと付随する文章を作成・改訂し,さらに電子メールで追加の議論を行った。草稿は,より広範なCONSORTグループのメンバー36名と,他に選ばれた臨床試験の専門家として知られる5名に回覧され,レビューを受けた。14名から幅広いフィードバックが寄せられ,それらのコメントを詳細に検討した後,拡張版の最終改訂版が作成された。
結果 [Findings]
この多群間比較試験用のCONSORT拡張版は,CONSORT 2010チェックリストの10項目を拡張し,優れた報告の例と各拡張項目の重要性の根拠を示している。主な推奨事項として,多群間比較試験は,多群間比較であることを特定されるべきであり,すべての治療群に関連する明確な目的と仮説が必要である。主要な治療の比較は特定されるべきであり,著者は多群から生じる計画および計画外の比較を完全かつ透明に報告すべきである。多重性の統計的調整が適用される場合は,その根拠と方法が記述されるべきである。
結論と関連性 [Conclusions and Relevance]
このCONSORT 2010声明拡張版は,多群並行群間ランダム化比較臨床試験の報告に関する具体的なガイダンスを示し,このような試験の報告における透明性と正確性の向上に役立つはずである。
総 説
レストランの照明デザインにおける顧客と経営者の対照的な視点
小林 茂雄(KOBAYASHI Shigeo)
Contrasting Perspectives on Restaurant Lighting Design: Customers vs. Managers
Correspondence author: Shigeo Kobayashi
Affiliated institution: Tokyo City University, Department of Architecture [1-28-1, Tamazutsumi, Setagayaku, Tokyo, Japan 158-8557]
Keywords: restaurant, customer, manager, lighting design, sales
Abstract
The lighting design of restaurants was examined by considering the perspectives of both customers and managers, a previously ambiguous aspect. Customers in the higher price range prioritized comfort and the ability to engage in deep conversations for extended periods. Managers, on the other hand, placed high value on the experience from entering the establishment to being seated. It was found that customers favored indirect lighting and table lights, while managers found pendant lights and ceiling spotlights more suitable.
要旨
飲食店の照明計画において,顧客と経営者の立場をはっきり区別して考察した。高価格帯の顧客視点では,長時間快適に過ごせる雰囲気や深い会話のできる環境を重視するが,経営者視点では店舗への入店から席に着く瞬間までの体験を重視する。顧客満足度を高めるためには間接照明やテーブルライトが適しており,収益を重視する経営者の立場では天井近くのペンダントライトやスポットライトが適していると考えられた。
解 説
NIH栄養研究への2020-2030戦略プラン
(副題:プレシジョン栄養学へのアプローチ)
山路 明俊 (YAMAJI Akitoshi)(ニュートリション・アイ)
健康を維持するためには、何を食べたらよいのだろう。この問題への回答は簡単なことに見えるが、私たちの誰もがそうでないことを知っている。過去数十年間に示された食事推奨量は、健康を促進するために何を食べるべきかについての手引きを目的としていた。しかし、私たちの多くにとって、これらの1つのサイズが全てにフィットするという、正しく食べる戦略は、理解して実施するということに対し、いらいらさせるものであった。現在、私達は食事と疾患リスク間に関係している、個人の食事応答には大きな違いがあることを理解している。それは、マイクロバイオームと称される体内微生物の世界での魅惑的であるが複雑な変化と同様である。人間相互間の相違は、殆ど全ての生物学的な特徴や振る舞いに浸透していて、NIHのプレシジョン医学を健康全体を改善するためのアプローチとして起動させている。 私達の健康と生活の質を最適化するために何を、何時、なぜ、どの様にたべたら良いかを決定する手助けになる実用的な食事推奨量を個別化してきたのは何なのだろうか。これは、プレシジョン栄養学の大胆なビジョンで、NIH栄養研究タスクフォースの何年にも亘る重労働の結果であり、NIH栄養研究に対する2020-2030戦略プランを通じて明瞭に示されている。このプランは、栄養と食事パターンやマイクロバイオームに関与した革新的な研究を通じて、栄養科学を基本的に変換させる、エキサイテイングで戦略的で科学的に導かれたアプローチを概説している。また、様々な疾患の文脈の中、生涯を通じて、総体的に健康における食事の役割を考慮している。このプランは、妊娠や幼少期、児童期を通じた栄養の形成的役割による、女性と児童の健康における食事の役割に関心を払った戦略に満ちている。 良い栄養は、私達の暮らしに取って極めて中心にあるので、単一の研究領域として考慮することは困難で、個人と社会に対する幅広い影響を無視してはならない。乏しい食事に関連した疾患は米国では最も頻度の高い死因であり、食事は世界的にも早死を誘引するリスク因子である。人々の食事を改善することによってこの重荷の一部を減少させることは、無数の命を救うばかりでなく、何十億ドルの年間の健康への支出を低下させることにもなる。これらの不快な統計に取り組むことは、NIHや様々な利害関係者に重要な責任を担わせることになる。しかし、このプランを通じて、私はより多くを知る;栄養科学の進展は、革新的なテクノロジーとエキサイテイングで予想出来ない発見を発掘する、他分野にまたがる研究チームを通じて発生するだろう。例えば、栄養科学者とデータ科学者との新しい協働は、人生の道程において、人々の健康生活をサポートする創造的で予測力のある栄養アルゴリズムを作り出すゴールを伴い、複雑で多次元のデータセットの処理を可能にしてくれる。AIのような新しいツールは、ホールフーズや個々の栄養素、食事やライフスタイルに対する社会文化的影響、個人と集団の健康に対する社会基盤の様々な役割を解決する先例のない機会を提供する。 このプランは、次の10年に亘って未踏であるが、栄養科学を途方もなくエキサイテイングで新しい領域に導くことを期待している。この新規な眺望は、栄養科学にホリステイックで、学際的な研究手段を作り出し、健康のための最良な食べ方は何かを知る能力を平易にするだろう。 医学博士 フランシス S.コリンズ NIHデイレクター
富士宮市の産品による健康バイオ発酵物の創生
高橋 雅人(TAKAHASHI Masato),大野 優奈(OHNO Yuna), 久保 惇(KUBO Makoto),佐野 幸弘(SANO Yukihiro)
Creation of healthy bio-fermentation using products from Fujinomiya City
Authors: Masato Takahashi 1*, Yuna Ohno 2, Makoto Kubo 2, Yukihiro Sano 2
*Corresponding author: Masato Takahashi
Affiliated institutions:
1 Kumamoto University School of Pharmacy /Graduate School of Pharmaceutical Sciences [5-1 Oehonmachi, Chuo-ku, Kumamoto, Japan 862-0973]
2 Toyo Capsule Co., Ltd. [7 Nanryo, Fujinomiya-shi, Shizuoka, Japan 418-0019]
Key Words: Fujinomiya city, trout, milk, peanut, biofermentation, ACE inhibitory activity, hypertension
Abstract
Fujinomiya City is located in the eastern part of Shizuoka Prefecture, 110 km from Tokyo and 288 km from Osaka. The northeastern part of the city includes the summit of Mt. Fuji. The city has a population of approximately 135,000. Fujinomiya City is not only located at the foot of Mt. Fuji, a UNESCO World Heritage Site, but also has many unique attractions such as rainbow trout, breweries, dairy products, and the award-winning Fujinomiya Yakisoba. The authors planned to create a new attraction for the city and developed a healthy bio-fermentation with ACE inhibitory activity derived from typical products of Fujinomiya City (rainbow trout, milk, and peanuts). This product is expected to contribute to the prevention and treatment of hypertension.
要約
富士宮市は静岡県の東部に位置し,東京から 110 km,大阪から 288 km のところに在位する。 市の北東部には富士山があり人口は約135,000人。富士宮市はユネスコの世界遺産に登録されている富士山のふもとに位置するだけでなく,ニジマスや醸造所,乳製品,受賞歴のある富士宮焼きそばなど多くの魅力的な産物がある。著者らは市の新たな魅力の創出として,富士宮市の代表的な産品(ニジマス,牛乳,落花生)由来のACE阻害活性をもつ健康バイオ発酵物を創生した。これにより高血圧症の予防や治療に貢献できるものと考えている。
連 載
ディカ(DIKA),マンゴーの様な果実
瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu),楠瀬 千春(KUSUNOSE Chiharu)
セネガルからアンゴラまで,熱帯アフリカ西部の広大な地域で,ディカは食用にされている。生息域の南西端,ナイジェリアからアンゴラにかけては,果実が食べられている。しかし,セネガルからウガンダにかけての主産地では,主食は圧倒的に種子である。国際的にはあまり知られていないが,ディカはマイナーな資源ではない。ほぼ20カ国の農村コミュニティに食料と収入を提供している。たとえば,カメルーン,ナイジェリア,ガボン,赤道ギニアといった国々では,林産物の中でも最も広く販売されている。収穫期には,何百万人もの人々がこの木を当てにして現金を得ている。
この貴重な果実と種子をもたらす木は,その自生地全域で最も高く評価されている天然資源のひとつである。森林が伐採されても,ディカは手つかずのまま残される。何本にも枝分かれした貴重な樹木は,鬱蒼と生い茂り,しばしば湾曲した樹冠を持つのが多くの二次林にまばらにみられる。
季節になると,高さ40メートルにまで成長するコンパニオンのような木に,小さなマンゴーのような緑と黄色の果実がたわわに実る。種類によっては,甘いと苦い果物になる。近年,この万能植物の2つの形態が別種として提案されているが,受け入れは不完全である。新鮮な果実がよく実る「食用タイプ」は,イルヴィンジア・ガボネンシスという原名が残っている。種子が西アフリカ全域で広く加工されている「調理タイプ」は,イルヴィンジア・ウォンボルと呼ばれている。甘い果実は主に生で食べられるが,ゼリーやジャム,"アフリカン・マンゴー・ジュース"に加工されることもある。ディカ・ワインの製造も試みられており,その結果,テイスティングではモーゼルのリースリング(ドイツワイン)と比較されたと製造者は主張している。発酵28日後のワインのアルコール度数は8.12%。
乳および乳製品の素晴らしさ
牛乳のタンパク質の神秘性と良い睡眠がとれる秘訣
「乳タンパク質の不思議と熟眠をもたらすメラトニン効果」
齋藤 忠夫(SAITO Tadao)
今月は牛乳に含まれるに乳糖,脂肪についで三番目に多い成分であるタンパク質について解説します。日本人のタンパク質摂取量は十分足りていたはずでしたが,WHOの提唱する新しいタンパク質の評価法を適用すると,まだ不足していることが分かりました。タンパク質は糖や脂肪と異なり,体内で蓄積しておくことができない栄養成分です。
近年,日本人の高齢化率は上昇し,全国で平均年齢が65歳以上の住民が50%を超える「限界集落」の話題が出てきています。ヒトの体を構成する成分のうち,固形成分の中で最も多いのがタンパク質です。私達の体のタンパク質を健全な状態で維持するためには,食事からタンパク質を摂り,絶えず入れ替えて更新する必要があります。高齢者の筋肉が減少するサルコペニアにも密接に関係しているタンパク質の特徴とその神秘性について解説します。 2022年には,ストレスを緩和し,良質な睡眠を誘導する乳酸菌飲料が話題となりました。乳タンパク質が熟眠度向上に関係する睡眠ホルモンを作る働きや,良い眠りを得るためには牛乳を一日の中でいつ飲んだら望ましいのかについても解説したいと思います。
伝える心・伝えられたもの
—台南散歩 塩と好運龍來—
宮尾 茂雄(MIYAO Shigeo)
私の祖父の家は広島県尾道市にあった。両親が仕事で忙しいこともあり,小学生の頃は祖父の家でいとこ達と過ごす夏休みが楽しみだった。往復の山陽本線の車窓に拡がる塩田の風景は,今も忘れることができない(史料1)。現在,天日塩田は国内にはほとんど残っていない1)。
台湾もかつては製塩業が盛んで(史料2),塩の移出国であった。台南にあった塩田跡が文化遺産として保存されていることを知り,2013年冬に台南市七股塩山と塩業博物館を訪れた。それから10年余り月日が過ぎた。2023年の秋,国立台湾大学にある磯永吉小屋(旧台北高等農林学校作業小屋)を訪れた時に,ボランティアガイドの方から,台南の「烏山頭ダム」を見学するよう勧められたこともあって,台北市から南におよそ300km,台北駅から台湾高速鉄道で1時間半,台湾の古都と呼ばれる台南を2024年2月に再び訪れた。
世界のメディカルハーブ No.22 フィーバーフュー
渡辺 肇子(WATANABE Hatsuko)
痛みと熱を追い払うハーブ
フィーバーフューはヨーロッパ南東部のバルカン半島が原産の植物で, デイジーのような外観です。高さ30 ~ 80cm, 緑から黄緑色の葉は互生し, 縁が波形で深く二つ以上に裂けています。6月ごろから秋にかけて, 枝分かれした茎の先に小さなヒナギクのような花をまとまって咲かせます。苦味を感じさせる強いにおいを放つことから, 昔の人々は家の周りにフィーバーフューがあると, 空気が清められて穢れが払われると信じていたそうです。
薬としては2,000年ほど前から利用されてきましたが, 古代ギリシャ人はアテネのパルテノン神殿から転落した人の命を救ったため, このハーブを”parthenium(パルセニウム)”と呼んだ, との伝承があります。フィーバーフューという英名は, ラテン語のfebris(発熱)とfugure(追い払う)が由来で, 解熱のほか, 偏頭痛や鎮痛などさまざまな不調の治療薬とされてきました。ディオスコリデスは, 抑うつ, 産後の胎盤の排出や月経不順の改善にも薦めています。またアングロ・サクソン人の伝承では, 神, エルフや魔女が放つ矢から飛び出す悪いものに対する治療薬と考えられていました。
その後ヨーロッパでは頭痛, 胃の不調, 歯痛, 神経痛, 刺傷などの治療薬として普及しました。17世紀の英国ハーブ療法士のニコラス・カルペパーは, 頭痛, 月経不順など多くの女性の症状, うつ状態に効果があるとして高く評価していました。