New Food Industry 2023年 65巻 11月号

解説

グルコマンナン粒子の低水分下での加熱による表層部の帯電性

釘宮 正往(KUGIMIYA Masayuki)

Electrostatic properties of surface layer of glucomannan granules by heating under low moisture
Corresponding author: Masayuki Kugimiya
Affiliated institution: Former Kurashiki Sakuyo University, The Faculty of Food Culture (3515, Tamashima-nagao, Kurashiki-shi, Okayama 710-0292, Japan)
Abstract
This paper first explained the electrostatic properties of glucomannan (GM) granules in konjac corms when heated, followed by those in polished konjac flours when heated under low moisture, and then those in commercial edible konjac. Based on the electrostatic properties of GM granules in polished flours when heated under low moisture, the factors that cause the electrostatic properties of GM granules when heated were explained. It was concluded the first causing factor for the electrostatic properties of surface layer of GM granules was heating under low moisture, and the second factor was assumed to be related to phase transition under the suppressed swelling of GM granules.
 こんにゃく精粉(以下,精粉)を用いた最初の報告1)で,グルコマンナン(以下,GM)粒子の表面には,精粉製造工程中に部分的に損傷・破壊された芋組織由来の細胞壁や中葉の一部または断片が付着していることを明らかにした。
 次の報告2)で,こんにゃく芋(生芋)から付着物(細胞壁や中葉など)のないGM粒子を得る方法として,加熱によるペクチンのβ‐脱離反応による低分子化・可溶化3)に着目した。すなわち,GM粒子を取り囲む細胞壁などの物理的強度を弱めるために,生芋切片を118℃,30分間加熱し,冷却後,45%エタノール(以下,EtOH)水溶液中で家庭用ミキサーを用いて粉砕処理した結果,付着物のないGM粒子が得られることが明らかになった。その際,得られた付着物のない粒子は,染色度合に濃淡はあるものの,45% EtOH水溶液で調製したメチレンブルー(MB)溶液で青色に染まることが分かった。GM粒子は本来中性多糖からなるものであり,なぜ塩基性色素のMBで染色されたのか,その仕組みは全く不明であった。
 本解説では,生芋,精粉および食用こんにゃくにおけるGM粒子表層部の帯電性について,主として我々の研究結果2, 4, 5)をもとに,その発生要因について説明する。最初に,生芋の加熱による帯電性,つぎに,精粉の低水分下での加熱による帯電性,そして,市販食用こんにゃくの帯電性について説明する。精粉の低水分下での加熱による帯電性を踏まえて,GM粒子の加熱による帯電性発生要因として一つ目は“低水分下での加熱”と結論づけた。二つ目は“相転移”が関係すると推測した。


プラントベース栄養の健康効果:心血管代謝疾患における豆類に焦点を当てる

Amy P. Mullins, Baharam H. Arijmand.  訳:山路 明俊 (YAMAJI Akitoshi)(ニュートリション・アイ)

要 約
 心血管疾患(CVD)は,世界的に死亡原因の上位にあり,米国では毎年,650,000以上罹患している。特徴的なのは単一の疾患でなく,脂質異常症,高血圧,タイプ2糖尿病(T2D),慢性システム全体炎症,肥満を伴っている。肥満は,CVDとT2D両方の独立のリスク因子で,米国で分類される,成人の42%以上,若年者の18.5%,問題を悪化させている。食習慣は,肥満と関連疾患状態の発症と進展を調節する最も重要な変更可能なリスク因子である。豆類やマメ科植物を含むプラントベース食事パターンは,栄養的な構成とファイトケミカルを含んだ生理活性化合物によって健康と疾病の緩和をサポートしている。当レビューは,豆類の特徴と肥満関連疾患と過体重,腸内細菌の環境,軽い炎症を含んだ関連する因子を改善する能力に焦点を当てている。さらに,損傷した免疫応答と免疫に関係した併発症の増大するリスクに肥満がリンクするというデータが増加している。体重管理と栄養状態は,免疫機能を改善し,恐らく疾患の重症化を防いでいる。プラントベース食事戦略の部分として豆類を利用することは,心疾患,メタボ,大腸の予防的効果をもたらし,肥満,軽度炎症を改善し,免疫関連疾患のリスク管理に貢献するかも知れない。


シリーズ EQUATOR Networkが提供するガイドラインの紹介

― CONSORT 2010声明: ランダム化パイロット試験およびフィージビリティ試験への拡張版(4)―

鈴木 直子 (SUZUKI Naoko),野田 和彦 (NODA Kazuhiko),波多野 絵梨 (HATANO Eri),髙橋 徳行(TAKAHASHI Noriyuki),中村 駿一 (NAKAMURA Shunichi),LIU XUN,柿沼 俊光 (KAKINUMA Toshihiro),馬場 亜沙美 (BABA Asami),山本 和雄 (YAMAMOTO Kazuo)

Introduction to Guidelines Provided by the EQUATOR Network.
— CONSORT 2010 Statement: Extension to Randomised Pilot and Feasibility Trials (4)—
Authors: Naoko Suzuki1)*, Kazuhiko Noda1), Eri Hatano1), Noriyuki Takahashi1), Shunichi Nakamura1), Xun Liu1), Toshihiro Kakinuma1), Asami Baba1), Kazuo Yamamoto1)
*Correspondence author: Naoko Suzuki
Affiliated institution:
1) ORTHOMEDICO Inc
 前回(New Food Industry 2023 Vol.65 No.9)に引き続き,EQUATOR Networkが提供する「CONSORT 2010声明: ランダム化パイロット試験およびフィージビリティ試験への拡張版」を紹介する。今回は,チェックリスト項目13〜19について,注意点や実際の記載方法について解説する。


連載解説

穀物手作業のブレークスルーの可能性

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu),楠瀬 千春(KUSUNOSE Chiharu)

 前号 (New Food Industry 2023 Vol.65 No.10)では,アフリカ独自の穀物生産を促進するための可能性ある技術的進歩を明らかにした。本稿では,これらの穀物の製粉や貯蔵の方法にも同様に影響を与える可能性あるその他の進歩をあげる。これらもまた,原理的にはアフリカ大陸全体に多大な利益をもたらす可能性のある技術革新である。しかし,繰り返しになるが,これらは本書の整理中に目に留まったほんの一例にすぎない。他の最先端技術も同等かそれ以上かもしれない。


 

連載 乳および乳製品の素晴らしさ 第2回

ミルクの乳質と世界の牛乳消費量
日本の食文化に適したホルスタイン乳とおなかがゴロゴロしない飲み方

齋藤 忠夫(SAITO Tadao)

 
 日本の全国の牧場や牛舎では,白黒模様の乳牛を必ず目にするかと思います。この牛は「ホルスタイン種牛」と呼ばれて世界中で最もポピュラーなウシです。この種類の乳牛が,なぜ日本の乳牛の約99%を占めるようになったのかの理由を,乳質と乳量の面から解説します。併せて,日本における牛乳と乳製品の生産と消費に非常に大きく影響する,牛乳を飲むとおなかがゴロゴロするという「乳糖不耐」と,それを回避する飲み方の工夫についても考えてみたいと思います。


Academic exchange between universities

Bridging Mexico and Japan:Exploring the Significance of Research Stays

Christian Andrea Lopez-Ayuso, Shin Uota, Alejandro Mena Acra, Masahiko Kobayashi,Laura Susana Acosta-Torres, Rene Garcia-Contreras, Hiroshi Sakagami

 In Mexico there is a regulatory body for quality programs called the National Council for Humanities, Sciences and Technologies (CONAHCYT for its acronym in Spanish) 1, which through the National System of Graduate Programs (SNP) facilitates and promotes the creation and consolidation of programs oriented to research in the sciences and humanities.Currently only 542 public and 21 private universities belong to this category. The Escuela Nacional de Estudios Superiores, ENES Unidad León, UNAM, is part of the SNP, thus favoring the support of scholarships for Master's and Doctoral students to pursue their studies as well as for national and international internships. In turn, the programs, and collaborations between different universities inside and outside the country that ENES Unidad León maintains and updates, allows the mobility of its students to develop activities of scientific dissemination, teaching, science, and research. Under this premise, in 2019 the first research stays of one of its master's students at Meikai University took place, and at the beginning of 2023 another doctoral student was accepted to develop part of her research project, favoring academic ties between these institutions.
 
和訳 大学間の学術交流 メキシコと日本の架け橋:研究滞在の意義を探る
 メキシコには,人文・科学・技術分野の国家科学技術審議会(CONAHCYT:Consejo Nacional de Ciencia y Tecnología)1)と呼ばれる,教育の品質プログラムのための研究機関があり,同機関は,国家大学院プログラムシステム(SNP)を通じて,科学および人文科学の研究を目的としたプログラムの創設と統合を促進している。現在,公立大学542校と私立大学21校のみがこのカテゴリーに属している。メキシコ国立自治大学(UNAM)レオン国立高等研究学校(ENES)は,SNPの一部であり,修士課程および博士課程の学生の勉学や国内外でのインターンシップのための奨学金支援に貢献している。


連載 世界のメディカルハーブ No.14

タイム

渡辺 肇子WATANABE Hatsuko

強い抗菌力で勇気を表すハーブ
 タイムは,地中海西部とイタリア南部が原産のシソ科の小低木です。同属の植物は種類が豊富で,温帯地域に300以上の種が存在します。タイムの名前の由来であるギリシャ語の「thumus」は勇気を意味し,かつて「タイムの香りのする人」と言われることは,男性にとっての最大の誉め言葉とされていました。


海外リポート
持続可能な食品包装の選択肢

 ミンテル・グループ社(Mintel Group Ltd.,)が実施した市場調査によると,食品の包装を基準に購入を決定している消費者はごく一部であるとされている。しかし,包装と関連する鮮度や利便性に対しては重要視しているようである。食品包装の最も重要な機能は保護・保存,密閉性,強度,取り扱いの利便性,情報表示,伝達等である。ガラス製,プラスチック製,金属製,紙製の食品容器は,いずれも封入の基準を満たしているが,それぞれの素材には固有の特性があり,それが特定の製品への適性を決定する。例えば,包装の中で熱処理が必要な食品や水分の多い食品には,紙は最適な選択ではない。ガラスは,食品をガス,水蒸気,外部の香り,臭気から絶対的に保護するが光に対する保護が不足しており,光に敏感な製品には適していない。パッケージに貼られるラベルは,マーケティング上と法的に要求される製品情報の両方を消費者に伝えるものである。利便性はパッケージデザインにとって重要な考慮事項である。パッケージの開けやすさ,製品の出しやすさ,パッケージの再密封のしやすさは,この分野の技術革新を推進する設計基準の一部である。