New Food Industry 2023年 65巻 10月号

解説

ゴマ油の特性と油糧種子加工

ヌルハン・ダンフォード

 
ゴマ(Sesamum indicum L.,旧分類 Sesamum orientale L.)は,ギンネリ,ティル,ベニシード,シムシムとも呼ばれる一年草で,ペダリア科に属する。野生種のほとんどはサハラ以南のアフリカ原産である。ゴマは亜熱帯や熱帯地域でよく育ち,アフリカやアジアでは一般的に植えられている。
 ゴマは一年草で,品種と農学的条件により,高さ20インチから60インチに成長する。根系が発達しているため干ばつに強く,灌漑を必要としない。
 ゴマの種子は,長さ約3mmから4mm,幅約2mm,厚さ約1mmで,莢とも呼ばれるサヤに包まれている。種子の色は,白,バフ,褐色,金色,茶色,赤みを帯びたもの,灰色,黒などがある。初期の品種は小さな圃場で栽培され,莢が砕けやすいため手摘みで収穫されていた。アラビアンナイトの物語のひとつ「アリババと40人の盗賊」に出てくる「開けゴマ」という有名な表現は,ゴマの莢が成熟すると少し触っただけでも破裂し,開くときにプチプチと音がすることから採用されたという説もある。子どもたちに人気のテレビ番組「セサミストリート」の名前も,好奇心を刺激する「開けゴマ」が由来だと言われている。
 史料によると,トーマス・ジェファーソンは200年前に試験圃場でゴマを栽培し,アフリカで使われていた呼び名である「ベニ」または「ベンヌ」と呼ばれていた。ゴマは1930年代に米国に導入されたが,機械的に収穫できる品種が無かったため,生産量は限られていた。1943年に突然変異によって飛散しないゴマが発見され,機械収穫に適した品種が開発されたため,1950年代から米国でのゴマの商業生産が始まった。現在,ゴマはテキサス州とオクラホマ州で栽培されている。バコ,パロマ,UCR3,SW-16,SW-17は,米国で栽培されている飛散しないゴマ品種の一部である。


連載解説

穀物農家の持つ問題点のブレークスルー

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu),楠瀬 千春(KUSUNOSE Chiharu)

 
本書は,アフリカの有望な穀物に関する調査のみを目的としたものであった。しかし,本書を作成するにあたり,スタッフは,アフリカ固有の穀物の利用と生産性に多大な利益をもたらす可能性のある非植物学的な開発に気がついた。これらの有望な開発のうち,農法に関するものはここで紹介し,食品調理に関するものは付録B,C,Dに記載した。さらにここで説明する新しいテーマは,ほとんど未検証,未開発のものであることも理解しておく必要がある。いずれも健全で強力なコンセプトが盛り込まれているが,農村の実践と貧困という厳しい現実の中で,本当に実用化されるものがあるかどうかは不明である。私たちは,科学者や行政官に対して,アフリカの将来にとって不可欠となる可能性のある,このような未解決のテーマを探求するよう促すために,これらのテーマを紹介する。


シリーズ:世界の健康食品のガイドライン・ガイダンスの紹介  第8回

―欧州食品安全機関 (EFSA).認知機能に関する機能性評価―

鈴木 直子 (SUZUKI Naoko), 野田 和彦 (NODA Kazuhiko), 波多野 絵梨 (HATANO Eri),中村 駿一 (NAKAMURA Shunichi), 髙橋 徳行 (TAKAHASHI Noriyuki), LIU XUN, 柿沼 俊光 (KAKINUMA Toshihiro), 馬場 亜沙美 (BABA Asami), 山本 和雄 (YAMAMOTO Kazuo)

Introduction to Guidelines or Guidance for Health Food Products in the World: European Food Safety Authority (EFSA) series
—Functional Assessment of Cognitive Function—
Keywords:European food safety authority, clinical trials, health food, cognitive function, memory, attention, alertness
 
Authors: Naoko Suzuki 1)*,  Kazuhiko Noda 1), Eri Hatano 1), Shunichi Nakamura 1), Noriyuki Takahashi1), Xun Liu 1), Toshihiro Kakinuma1), Asami Baba1), Kazuo Yamamoto1)
*Correspondence author: Naoko Suzuki
Affiliated institution: 1) ORTHOMEDICO Inc. [2F Sumitomo Fudosan Korakuen Bldg., 1-4-1 Koishikawa, Bunkyo-ku, Tokyo, 112-0002, Japan.]
前回(2023 Vol.65 No.8 掲載,「シリーズ 世界の健康食品のガイドライン・ガイダンスの紹介―欧州食品安全機関(EFSA). 身体パフォーマンスに関する機能性評価―」)に引き続き,欧州食品安全機関(European Food Safety Authority: EFSA)の発行するガイダンス(以下,EFSAガイダンス)について隔月で紹介する。今回は,EFSAガイダンスの「Guidance on the scientific requirements for health claims related to functions of the nervous system, including psychological functions」1)の「4.1. Claims on cognitive function」に記載されている,認知機能に関する機能性評価についてまとめた。本ガイダンス1)における認知機能(cognitive function)は,心理学的構成概念としてよく定義されており,様々な領域(domain),すなわち「記憶(memory)」,「注意・集中(attention/concentration)」,「警戒(alertness)」,「学習(learning)」,「知能(intelligence)」,「言語(language)」,「問題解決(problem solving)」 を含む。上述した一つ以上の認知領域の向上,維持,および損失の抑制は,有益な生理学的効果をもたらすと考えられている。そこで,本稿では,本ガイダンス1)に記載される,(1)有益な生理学的効果として考えられたヘルスクレームの種類,(2)そのヘルスクレームが対象とする集団の定義,(3)そのヘルスクレームの根拠となるヒト試験の特徴,の3項目に焦点を当て紹介する。


新連載 乳および乳製品の素晴らしさ 第1回

牛乳の色調と初乳の不思議

齋藤 忠夫(SAITO Tadao)

 ミルクは「食品として分子設計された唯一の天然物」だと定義されています。たしかに,肉も卵も食べられる美味しい食品なのですが,食品として設計されてはいないということです。ですから,肉も卵も食べ過ぎれば,病気の原因となる可能性がありますが,ミルクを飲み過ぎて病気になる子牛はいません。
 さて,私たち人間は乳および乳製品から多大な恩恵を受けて暮らしています。日本の家庭の冷蔵庫には,牛乳は家庭用常備食品として必ず入っている必要不可欠な食品に位置づけられています。乳や乳製品についての研究も世界中で行われており,科学的な情報は常に更新されています。
 日本では「畜産物利用学」,「動物資源利用学」,「畜産食品加工学,「畜産食品の科学」などの名称での多くの教科書(テキスト)は出版されていますが,ミルクや乳製品の最新の情報が最近は全く反映されておらず正しい科学情報の伝達について危機感を持っています。
 この連載では,その後のミルク科学の研究および開発分野で,新たに明らかとなった科学的事実などをタイムリーにお知らせしたいと考えました。今月は,牛乳の外観である色調と初乳の不思議について取り上げたいと思います。


伝える心・伝えたいもの

—万延元年遣米使節団とアイスクリーム—

宮尾 茂雄(MIYAO Shigeo)

 猛暑を通り過ぎて「酷暑」が続いている。今年7月,東京では最高気温が35℃以上の猛暑日が13日あった。東京,名古屋,大坂,福岡にある4か所の観測所の7月平均気温は,この126年間で,およそ2.3℃上昇したという(朝日新聞朝刊,2023.8.2)。コンビニエンスストアでは氷菓が飛ぶように売れているというが,我が家でも,冷凍庫に入れておいたアイスクリームがあっという間になくなってしまった。今回は酷暑の救世主,アイスクリームと日本人の出会いを探ってみたいと思う。
 前回,咸臨丸で太平洋を往復し,帰国後は海軍所頭取など幕府の要職を務めた木村喜毅(天保元 (1830)〜明治34 (1901)年)をとりあげた1)。今回は遣米使節団,正使一行のナンバー4,勘定組頭を勤めた森田岡太郎清行(以下森田岡太郎)(文化9 (1812)〜文久元 (1861)年),当時49歳,やや遅咲きのキャリア官僚が主人公である(図1)。


コーヒー博士のワールドニュース

太ったらコーヒーを飲みなさい

岡 希太郎

 Nature誌の8月10日号に,大手製薬会社ノボ・ノルディスク社が新たな肥満症治療薬セマグルチド(商品名:ウィゴビー)に,肥満患者の重症心臓発作を20%予防する効果があると現地でプレス・リリースしたそうです1)。日本では去る3月に承認されたばかりの肥満症治療薬セマグルチドですが,本来は2型糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬でインスリンが増える)として開発されたものです。それが投与量を増すことで体重減少効果を示すことが見つかって,急遽肥満症に適応拡大されたのです。NHK健康チャンネルでも今年5月に話題になりました2)。ノボ社では,その後も臨床試験を続けた結果,今回は重度の肥満患者の心臓発作を予防する効果が見つかったとのこと。米国NY市内では,ノボ社の広告が人目を引いているそうです。


連載 世界のメディカルハーブ No.13

パッションフラワー

渡辺 肇子WATANABE Hatsuko

 
心を鎮める”キリストの受難”のハーブ
 
パッションフラワーは北米南東部が原産のつる性のハーブで,10cmほどの複雑な形をした花をつけます。一見すると10枚の花弁を持つように見えますが,これは5枚の白い花弁と赤紫や青色をした5枚の萼片です。内部には多数の糸状の副花冠と5本の雄しべ,1本の雌しべがあり,花柱は3本に分かれて赤味がかった先は膨らんでいます。花が落ちると,黄色や紫色をした卵形の実をつけます。果実はメイポップと呼ばれ,食用にされることもあります。なお果物のパッションフルーツはPassiflora edulis(クダモノトケイソウ,リリコイ)で,本種とは異なる植物です。