New Food Industry 2023年 65巻 7月号

原著

こんにゃく精粉の異なる水分下での加熱によるグルコマンナン粒子の帯電性について

釘宮 正往(KUGIMIYA Masayuki),大野 婦美子(OHNO Fumiko),石永 正隆(ISHINAGA Masataka)
Electrostatic properties of glucomannan granules by heating polished konjac flours under different moisture conditions

Authors: Masayuki Kugimiya 1*, Fumiko Ohno 2 and Masataka Ishinaga 3
*Corresponding author: Masayuki Kugimiya
Affiliated institution: 1, 2 Former Kurashiki Sakuyo University, The Faculty of Food Culture
 [3515, Tamashima-nagao, Kurashiki-shi, Okayama 710-0292, Japan] 
 
3 Sanyo Women's College[1-1, Sagata-honmachi, Hatukaichi-shi, Hiroshima 738-8504, Japan]
 
Key Words: glucomannan, charging phenomenon, konjac corms, limited swelling,  Rapid Visco Analyzer, viscosity
 
Abstract
 The polished konjac flours were autoclaved (120℃, 30min.) or heated in boiling water (100℃, 30min.) at different moisture contents of 82.0-99.1%. After cooling, the ground samples were examined for MB staining. As a result, when the moisture contents were low (82.0 to 90.0%), the surface of the sample was seen to be stained light blue. On the other hand, in the case of high moisture contents (98.2, 99.1%), no blue-stained material was observed except for staining such as cell walls. From these results, it was confirmed that GM granules were stained with MB by heating under low moisture conditions in the case of polished flour. These results also suggest that the electrostatic properties of GM granules in raw konjac corms due to heating is related to the suppression of water supply necessary for sufficient swelling of GM granules in cells due to the toughness of the corm tissue, which is similar to the gelatinization of starch in the tissue of legumes. Although the details are unknown, it was speculated that the phase transition of GM molecules heated under low moisture is the cause of electrostatic properties. Viscosity was measured using RVA with a moisture content of 99.1%, and the presence or absence of MB staining was examined after the measurement was completed. As a result, MB staining of the sample was not observed regardless of the heating rate and final temperature. From this result, it was inferred that the electrostatic properties of GM granules observed in this study is not related to the exothermic phenomenon (phase transition) found by Karim et al. using differential scanning calorimetry (DSC). 
 
 著者らは前報1)で,こんにゃく芋(以下,生芋)を100または120℃で30分間加熱し,冷却後,粉砕して得られたグルコマンナン(以下,GM)粒子の表面がメチレンブルー(以下,MB)で染色されることを明らかにした。この染色は,低濃度の塩化ナトリウムの存在下で消失したことから,加熱によって負の電荷を帯びたGM粒子と塩基性のMBとの静電気的相互作用に起因すると考えた。
 また,前報1)で,生芋またはこんにゃく精粉(以下,精粉)から製造された市販の食用こんにゃくを用いて,これらの粉砕物中にMB染色物が存在することを明らかにした。このことは,GMが生芋だけではなく精粉でも,製造中の加熱によって帯電現象(以下,帯電性)が生じることを示唆した。しかし,加熱によって精粉中のGM粒子が,どのような条件下で帯電性を示すかは不明である。
 今回,精粉中のGM粒子の加熱による帯電性を確認するために,異なる水分下で精粉を加熱し,得られた試料のMB染色の有無を検討した。その結果,低水分下で加熱した試料がMBで染色されることを確認した。この結果を基に,GM粒子の帯電性発生の要因について考察した。
 
 

解説  

薄暗い環境における食事中の行動変容

小林 茂雄(KOBAYASHI Shigeo),内藤 里枝(NAITO Rie)
Behavioral changes during meals in dim environment

Authors: Shigeo Kobayashi 1*, Rie Naito 2
*Corresponding author: Shigeo Kobayashi
Affiliated institutions:
1 Tokyo City University, Department of Architecture [1-28-1, Tamazutsumi, Setagayaku, Tokyo, Japan 158-8557]
2 Hirosima Kensetsu Co., Ltd. [1004, Toyoshiki, Kashiwashi, Chiba, Japan, 277-0863]
Keywords: low illuminance, restaurant, chewing sound, conversation speed, lighting environment
 
Abstract
 The reason for eating in a dimly lit environment is generally said to create a visually calm atmosphere. In addition, this study assumed that behaviors during eating might change unconsciously. Experiments using light meals did not fully confirm the prediction that eating and drinking slows down in a dimly lit environment. However, it was confirmed that depending on the food, the mastication time was prolonged, the mastication sound was reduced, and the smell was more easily perceived. Furthermore, the voice was low, the speed of conversation slowed down, and the posture tended to lean forward a little. It is thought that in a dim environment, the combination of visual atmosphere and behavioral changes may lead to close interpersonal relationships.
 
要旨
 薄暗い環境下で食事をする理由として,一般的には視覚的に落ち着いた雰囲気を重視するためといわれているが,本研究ではそれだけではなく,食事中の行動が無意識に変化するのではないかと推測した。軽食を用いた実験を実施した結果,薄暗い環境で飲食スピードが遅くなるという予想は十分に確認できなかった。ただし食品によって咀嚼時間が長くなったり,咀嚼音が小さくなったり,また匂いも感じやすくなったりすることが確認できた。さらに声が小さく,会話速度が遅くなり,姿勢がやや前傾する傾向にあった。薄暗い環境では視覚的な雰囲気と行動変化が合わさって,対人関係を密に構築することに結び付くのではないかと考えられる。
 

随 想

北海道での菌類との付き合い35年を振り返る

富樫 巌(TOGASHI Iwao)

 新潟県北端の寒村出身の著者は就職・転職・進学を経て,28歳の時に旧・労働省の新人職員として北海道に渡った。2年後の1986年4月に北海道立林産試験場(現・(地独)北海道総合研究機構 林産試験場)の研究職員に採用され,木材防腐と食用菌栽培の両部署に勤務し,人に不都合な微生物を退治して必要な微生物を増やす「微生物制御」を実学として学んだ。縁あって旭川工業高等専門学校((独)国立高等専門学校機構の最北キャンパス;以下,旭川高専と記す)の教員となり,2005年度から2021年3月末まで応用微生物学や微生物制御を中心とした座学,実験・実習,卒業研究を担当した。本拙稿では主に菌類(キノコ,カビ,酵母)との付き合い35年間を振り返ると共に,定年退職・研究室閉鎖時に観察した−20℃凍結保存2年弱のシイタケ菌株の生存状況,および純水保存3年弱のコウジ菌~同6年弱のエノキタケの各菌株の生存状況などを紹介したい。食農関連分野で微生物を扱う方々のコーヒーブレイク時に,雑談ネタの一つにでもなれば幸いである。
 

連載解説

テフ,TEF

瀬口 正晴(SEGUCHI Masaharu),楠瀬 千春(KUSUNOSE Chiharu)

 
 本論文「テフ,TEF」は“Lost Crop of Africa”volume I Grains NATIONAL ACADEMY PRESS 1996の第12章 TEFを翻訳紹介するものである。
 テフ(Eragrostis tef)は,世界で唯一,エチオピアという国で重要な作物である。その生産量は,他の穀物の生産量を上回っている。エチオピアの農家は毎年,約140万ヘクタールのテフを栽培する。一般名は,英語で「teff」または「t'ef」と表記されることが多い。テフは,シンプルでわかりやすく,将来的にこの作物が世界的に拡大し,受け入れられるようにするためのマーケティングに適した名前であると思われる。穀物生産量全体の約4分の1に当たる0.9百万トンを生産している。1980年代半ばの統計によると,テフはエチオピアの穀物の23パーセントを生産していた。その他はモロコシ(26%),トウモロコシ(21.7%),大麦(17%),小麦(12.4%)である。 この穀物は特に西部の州で人気があり,人々は他の穀物よりもテフを好み,毎日1,2回(時には3回)食べている。この地域では,テフは一般的な食事のタンパク質の約3分の2を占めている。
 

コーヒー博士のワールドニュース

コーヒーと水の似ている所と違う所

東京薬科大学名誉教授 岡 希太郎

疫学研究では「コーヒーは健康に良い」となっていますが,実は身体にとって「水が良いからコーヒーが効くように見えるのである」と患者に話す医者がいます。つい先日のNHK番組「あさイチ」でも,そういう専門家の話がありました。今回はこの問題を検証します。まず図1は,人体の水の量とコーヒーから摂る水の量の比較です。 コーヒーと健康の疫学研究の最初の成果は,2002年にランセット誌に載った「コーヒーと2型糖尿病(T2D)の関係」という論文です1)。これはオランダ国立研究所の研究員だったR.ファン・ダムが書いた論文で,彼はその後ハーバード大学の教授になりました。この論文のインパクトの大きさを想像できるというものです。しかし,この論文には「水が効いている」というような文章は見当たりません。果たしてどうなっているのでしょうか?その疑問を解かないと,コーヒーと健康の話は嘘ということになりかねないのです。以下に論文が発表された年代順に解説します。
 
 

連載 世界のメディカルハーブ No.10

エルダー

渡辺 肇子WATANABE Hatsuko

 
エルダーはヨーロッパ,西アジア,北アフリカに自生し,9mほど高さになる樹です。5月〜6月頃に小さい白色の花を咲かせ,その甘い香りはマスカットに似ているとされます。学名のSambucusは茎が林立するさまが古代ギリシャの楽器サンブカに似るところから,nigraは熟した果実の黒色に由来します。古くからエルダーは料理,日用品,化粧品そして薬として重宝されてきました。花はコーディアルやお茶に,熟した実はパイやタルトに入れたり,かつては「英国人のブドウ」と呼ばれ,ワインの材料にされたりしました。また材木は針,おもちゃ,パイプなどに加工されていました。古代ローマではエルダーベリーを乾燥させて食べるほか,髪の染料としても利用しました。また消炎,止血,鎮痛など改善や下剤としても効果があるされ,古代ギリシャの医師ヒポクラテス(BC460年〜370年頃)は,エルダーベリーを万能薬と記しています。中世ヨーロッパでは長寿のための強壮剤として処方されたこともあるそうです。内用,外用に広く民間治療に活用され,高価な薬や治療を受けることのできなかった民衆にとってはなくてならないものであったことから,”田舎の薬箱”,”庶民の薬箱”などの呼び名もあります。